─ピッチュ、チュンチュン─
朝霧が漂う森の中、俺は先日貰ったアーチェリーと鵺、荒縄で縛った藁束を担いで近場の森まで来ていた。
流石に貰ったものに埃を被せておくのは失礼だろうと弓の練習をするべく、訓練の時間を取ったのだ。
とは言うものの、弓の訓練なんてした事なぞ無いし、コピーキャットのようなモーション模倣ツールなんて使おうものなら数分で全身筋肉痛になり、まともに動けなくなる。
結局、独学で弓を覚えるしかないのだ。
『周囲300メートル、規定値以上の生命反応無し。』
「りょーかい。んじゃ、適当に始めますか。」
アーチェリーを組み立て、レーザーポインターを取り付ける。
手元のスイッチを押すと離れた所に赤い点がポツリと表示される。
30メートル程離れた場所に藁束に取り付けてある杭を刺し、地面に固定する。
元の場所に戻ってみると銃で狙いをつける時より幾分離れて見えた。これを狙えというのか。
「矢をつがえて……狙いを定め……」
藁束にレーザーポインターの点を合わせる。銃と違って照準がぶれることぶれること……。
「……っ!」
呼吸を整え、矢を離す。
風を切って矢が飛んでいき……藁束に届かない程度の所で落ちた。
「………………」
『完全に威力不足ですね。』
「わかってる。次こそは……」
矢筒からもう一本矢を取り出し、今度は先程よりも少し強めに弦を引く。ポインターは……あぁあぁ、さっきよりももっと震えてるよ。
手を離すと確かに藁束まで届くほどの威力が付いたのだが、今度は全く当たらない。
「ラプラス、M700」
『今は弓の訓練中ではありませんでしたか?』
「いいから」
足元に置いていた鵺を取り、狙撃銃を展開。
ろくにスコープを覗かずに藁束へ向かって発砲。弾丸はど真ん中を貫いて行った。
「これはできるんだけどなぁ……」
『息をするように当てますね。弓は全く当たらないというのに。』
言われなくてもわかっている。同じ狙いを付けるものなのだからある程度は使えるだろうと高をくくっていたが……これは全くの別物だ。
「厄介だな……まるで勝手が違う。」
『同列に考えられる物では無いかと。弓の訓練と銃の訓練では熟練と呼ばれるのに10倍以上も長さが違いますから。』
「無論弓のほうが長いよな?」
『当たり前です。』
これはこちらの世界にいる間に使い物にするのは難しいかもしれない。
その後も立て膝になってみたり、姿勢を変えてみたりと試行錯誤してはいたものの、やはりまともに当たらない。
そんな時……急にラプラスから警告が発せられた。
『警告。有効射程距離内に生体反応あり。数1、距離300。』
「ん……誰か来たか?」
瞬間、俺の隣を掠めて何かが飛んでいき、藁束に突き刺さる。
それは……矢?しかも3本同時だ。
飛んできた方向を見ると、遠くに女性が弓を構えて立っていた。
あの姿には見覚えがある。
「アイシャか……何故ここに?」
「ギルドに行ったらあんたがいなかったから。例の鼠娘に居場所を聞いてきたのよ。」
ニータか。あいつも本当であれば教えたくなかっただろうに……でもこいつに脅されたら多分何でも吐いてしまいそうな気がする。
ちなみにいうなれば、冒険者ギルドの拠点と言う物は割とホイホイ変えられる。
無論そのギルドの登録数が少なければ簡単には降りないだろうが、基本的にどこへ行こうと自由だ。
「それ、弓?なんだか少し変わってるわね……」
「合成樹脂製のアーチェリーだ。知り合いの連中から貰ったんだが弓なんて使った事がなくてな……扱いに四苦八苦している所だ。」
矢筒からもう一本取り出し、藁束へ向けて射る。やはり的から外れて遠くの方へと落ちる。
「ご覧の通りの有様だ。難しいな、弓というのは。」
「……違う。」
ボソリと彼女が何かを呟く。
そして、殆ど強引と言っていいまでに俺の体の向きやら角度やらを調節し始めた。
「いい?足は肩幅程度に開いて、腕、腰、足のラインを全て並行に保つの。体は的に対して常に直角に。これが一番の基本。いい?」
「あ……あのぉ……アイシャ?」
「ていうかこれが初めてでしょ?まずは近い所で矢を打って力の入れ具合を調整しながら撃つ物なんだから。いきなり100フィート近くなんて無謀よ?」
どうやら弓の扱いを教えてくれるらしい。なんだか嬉々として説明しているような印象を受けるな……
「任せなさい!私が教えるからには一人前の射手にしてあげるから!」
お手柔らかにお願いしたいものだ。
「んで、これは?」
「見ての通りバネね。鋼製のすっごい固い奴。」
俺が渡されたのは何本かの長いバネが連なった輪っかだ。見た目的にエキスパンダーに似ている。
「これを楽に引けるようになるまで引っ張って。弓を引き絞る要領でね。」
「ふむ
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