ピリピリという耳障りな目覚まし時計を止め、一度伸びをしてカーテンを開ける。
爽やかな春の朝日が部屋の中に差し込み、一日の体内時計がベストタイミングに合わさった。
今日から学校も新学期。僕は高校の2年生となり、クラスや友人も一新される。
仲の良い友人と同じクラスになれるか、それとも新たな出会いが僕を待っているか……
ほんの少しだけ……下心もあったりして。健全な男の子なんだし仕方ないよね。
「記章は……っと。うん、新しいのに付け替えたね」
新しい学年になるというのに記章が1年生のままでは周囲の笑い者になる。
挙句その学年の間中あだなが『イチネン』なんてなったらもはや学校に行くことすら苦痛になるかもしれない。
申し遅れたね。僕は櫻井 陽介。神代(じんだい)学園に通う極普通の高校2年生。
趣味は軽小説を読むこと。これといった特技無し。帰宅部所属の皆勤賞……ってこれは関係なかったね。
「さ〜て……ご飯ご飯……っと」
下の階の洗面所で顔を洗って歯を磨くと、リビングへと朝食を食べに行く。
リビングの扉を開けると、味噌汁とご飯の良い香りに混じってふわりと薄甘い良い香りがした。
母さん……始業式には父兄は呼ばれないから香水なんて付ける必要……
「あ、よう君おはよ♪」
テーブルには見慣れない美人が見慣れた学校の制服を着て座っていた。というか、僕の学校の女子の制服だった。
「ん、おはよ」
僕の父さんは時折突拍子も無いドッキリを仕掛けてくる。
そして今日は4月1日。父さんのドッキリが一番激しくなる日だ。
昨年は……
「実はな……今日父さんに赤紙が届いたんだ。紛争地帯に行って救護活動をして来いと言うことらしい」
なんて言って迷彩服に身を包んでエアガン(それこそ無駄にリアルな奴)のアサルトライフルを担いで玄関に立っていたんだ。
「母さんをよろしく頼んだぞ」
なんて頭を撫でながら言ってくるんだよね。
その後どうしたかって?普通に朝ごはんを食べて普通に学校に行ったよ。
普段から騙され慣れていると耐性も付くしね。
そして今年のこれである。
まさかドッキリのためにこんなモデル顔負けの美人すら巻き込むなんて……母さん何も言わなかったのかな。
「由利、学校の時間は大丈夫なのか?」
「へーきだって。いざとなったらよう君も巻き添えにして走って行くから」
そう、これはドッキリだ。
父さんとこの美人が何の変哲もない朝の一コマを演じているのも、多分ドッキリだ。
なにせ僕は一人っ子なのだから騙される事もない。
ちなみに、生き別れになった姉というのも、いない。何で知っているかって?
……健全な男の子はそういうロマンも夢見るもんなのですよ。
「あら、ちょっと味噌汁が濃かった……?陽はどう思う?」
「ん〜……このぐらいでも問題ないと思うよ」
母さんがとりとめもない話題を僕に振ってくる。
母さんも同じように共謀して僕にドッキリを仕掛けてくるからたまったものではない。
なにせ演技力が半端ない。なんでも結構有名な女優だったとか……。
なんでこんな冴えないおっさんと結婚したんだろうね、母さんは。
「「ごちそうさま〜」」
「お粗末さま。初日から遅刻しないように早めに行きなさいよ?」
「ん、わかった〜」
自室に戻って鞄を掴んで玄関まで行く。
姉ちゃん(?)は既に準備を済ませて玄関前にいた。
「忘れ物は無い?」
「大丈夫、昨日の内に全部確認したから」
靴べらを使って靴に足を押し込み、つま先で床を蹴って位置を整える。うん、完璧。
「それじゃ二人共、いってらっしゃい」
「いってきま〜す♪」
「いってきます」
玄関を出て家の門扉を閉めた。
………………
…………
……
「……あれ?ネタばらしは?」
「よう君どうしたの?」
本来だったならば玄関を出た所でネタばらしがあるはずなのに、今年はそれがなかった。
これは毎年の恒例行事であり、僕が玄関を出ること=今年のドッキリ終了という暗黙の了解がある。
しかし今年は……投げっぱなしだ。
「(ドッキリはまだ続いているのかな……)」
「新学期楽しみだねぇ……沢山友達できるかな?」
隣を同じ程度の速度で歩いている姉ちゃん(仮)は呑気にこれから始まる学校の生活に思いを馳せている。
つややかな銀髪が春の風になびき、桜の花弁が舞う中で優雅に歩くその姿は十人が十人全て振り向くような……
「(……あれ?)」
しかし周囲を歩く学生は見向きもしない。
まるでそれが日常の一部か何かだとでも言うように無関心だ。
「……?」
今日は何かがおかしい。
まさか学校ぐるみで僕をドッキリに嵌めようとしているのか?
一体何の得があるというのだろうか。
僕が困った所を見て得をするのは……物陰からいつも僕を見てはぁはぁ息を荒げている
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