〜???〜
この空間に降り立つのもこれで9回目。そろそろ終わりが見えてきてもいい筈なのだが……。
『私とセンはどこにでもいる普通の村人だった。畑を耕して、日々の感謝を神に祈り、日が沈めば眠りに就く。ただの村人だった。』
燦々と太陽が照らし出す中、2つの家族が畑仕事をしている。
昼食の弁当を食べる前にお祈りをし、日が沈めば家に帰って夕食を食べて眠りにつく。
『幸せだった……。特別な関係になんかなれなくても、ただ二人で寄り添うことができればそれでよかった。』
木の根元に二人の男女が寄り添って眠っている。
二人の顔は幸福そうに綻んでいた。
『そんなある日だった。私たちの村に見た事も無い男の人達が踏み入ってきた。彼らは持っていた何かの道具を見ながら一人一人村の人を調べていった……』
ベレー帽を被った集団が村人に何かの計測器具のようなものを突きつけている。
あれは一体……。
『そして、私へとその道具が突き付けられた時、彼らの様子が一変した。私を地面に押し倒して拘束しようとした……』
少女を押し倒す男達。無論性的なことをするといった感じではない。
口の動きを見るに、見つけたと言っているようだ。
『センは……危険を顧みずに私を助けてくれた。私を押さえつけている人を突き飛ばして、私の手を引いて必死で逃げてくれた。』
少女の手を引いて逃げる少年。
後ろからはボウガンの矢が飛んできて地面や樹木に刺さっている。
『でも……私のほうが先に息切れを起こしてしまった。そんな私を見て、彼は私だけを逃がそうとした。』
泣いてすがりつく少女の肩を押して引き離す少年。
最初は嫌がりながらも、結局押し通されて逃げ出す少女。
『早く助けを呼べばセンは助かる……!近くの集落に……誰かに助けてもらわないと!』
疲労でふらつきながらも必死で逃げる少女。
しかし、彼女の周囲にはどこか奇妙な植物が入り混じり始めた。
心なしか桃色の霧が漂っている気がする。
『逃げて、逃げて逃げて逃げて……気がついたら変な場所にいた。奇妙にねじ曲がった植物が辺りに自生し、甘ったるい桃色の霧が漂っている。そんな時、私は急激な体調の変化に襲われた。』
肌が真っ黒な斑模様におおわれていく少女。見ているだけでこちらのほうが発狂しそうだ。
目を背けたいが、残念ながら目をつぶっても映像が飛び込んでくる。
『私の体がだんだんと黒くなっていく。恐怖が心を支配するけれど、同時に受けた感覚に思考が混乱する。ものすごく……気持ちがよかった。』
彼女の全身が黒い斑点に覆われると、今度は彼女から黒いドロドロとした液体が溢れてきた。
その液体が座り込んだ彼女の足元に溜まり始める。
『耐え難いほどの快楽の後に気がつくと……私はもう既に人間ではなくなっていた。しかし同時に、ある事も理解できた。これなら……センを助けられると。』
黒い斑模様に覆われていた彼女の体は元の白さに戻り、服がなくなっていた。
そして、彼女は黒い球体に跨っている。ダークマターの誕生の瞬間だった。
『私は急いでセンの下に向かった。空に浮かび上がって彼を探すと、呆気無く見つかった。私は彼を助けるため、彼へと一目散に向かっていった。けど……』
抑えつけられてナイフで一突きされる少年。
刺された場所は腎臓……まず助からないだろう。
少年の側に少女が近寄り、彼を抱き上げる。
『私がセンに近づいている事に気付かれて、彼は……殺されてしまった。冷たくなっていく彼を……私はただ見ている事だけしかできなかった。』
血に濡れた手で少女の頬をなで、少年は息絶える。
そして、彼女のいた場所に光の膜が張られていく。恐らくはダークマターを封じ込めるための結界か何かだろう。
『私はセンを埋葬して、何故彼が死ななくてはならなかったのを考えた。結果的に……巻き込んだ私が悪いという考えに落ち着いてしまった。』
粗末な墓の横で呆然と空を見上げる少女。
魔力を節約するためなのか、彼女の乗っている魔力の塊はピクリとも動かない。
『幸いにもここは魔力の吹き溜まりだったみたいで、集まってくる魔力を体に取り込んで生きながらえることができた。結果的に周囲の魔力が全部私に吸収されて、植物が正常な状態に戻ったのは皮肉以外の何者でもなかったかな。』
ダークマターという精霊は存在するだけで周囲を魔界に替えてしまう性質を持つ。
しかし、彼女の周囲は魔力で変質することもなく通常の状態を保っていた。
『それから……長い年月が経った。私の考える事は何故センが死んでしまったのかという事から、何故彼らみたいな理不尽な死を振りまく者がいるかに変わっていた。センを失った悲しみは憎しみへと変わっていた。そんな時、私の中に何かが突然現れた。最初は、それが何なのかわからなかっ
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