第五十三話〜食いしん坊万歳!〜


〜怪盗バトルロワイヤル〜

人間の記憶というものは曖昧で、どうでもいいことは割と簡単に頭の中から消し去られてしまうものだ。
PCのようにバックアップなんて取れる物ではないし、どこかのサーバーに預けておくこともできない以上、そのデータ破損率たるや不良品もいい所だ。
しかし、いくら物を忘れようともこうして文明は連綿と続いている訳で……意外と問題にはなっていないのかもしれない。


lt;〜交易都市モイライ 市場〜

「あっさめっしあっさめっし〜♪」

朝市で朝食のミートブレッド(こちらの世界でのハンバーガーのようなもの)を買い、休憩所で包を開ける。
今日は奮発してローストビーフ入りのだ。
記憶がだいぶ戻ってきてから食事がやたら美味しく感じてしまうのは向こうでの食生活が貧弱過ぎたからなのだろうね。多分もうソイレントグリーンなんて食べられそうもない。

「いっただっきま〜……」

手に持ったミートブレッドにかぶりつく。
薄い紙のような食感に歯が悲鳴を上げる……って

「……なんじゃこりゃ。」

手に持っていたミートブレッドがいつのまにかただのカードになっていた。
何かが書いてある……

『モイライ倉庫街24番倉庫で待つ。返して欲しければ一人で来るべし      怪盗タイガ』

包の中には既にミートブレッドはない。
ぎゅるぎゅると腹の虫が不満そうな声を鳴らし始めた。

「っく……クククク……いいぜぇ……いい度胸だ……」

ベンチからゆらりと立ち上がり、空を見上げる。
周囲からヒソヒソと何かを言われているが、耳に入らない。
今俺の怒りは有頂天に達していた。

「俺に対する宣戦布告か。食い物の恨みは……恐ろしいんだぜ?」

そのまま宿舎の自室へと駆け戻り、鵺を引っ掴むと指定された倉庫を目指して駆け出した。

『今日のマスターは様子がおかしすぎます。戦争でも始めるつもりでしょうか。』
「当たらずも遠からずだ。今日の俺は……最初から最後までクライマックスだぜ?」
『ついにマスターが壊れてしまいましたか。今の内に次の職場を見つけておくべきでしょうか。相談先はオー○事で合っていますかね?』
知るか。

〜倉庫街 24番倉庫〜

たどり着いた倉庫は果物の卸業者の物のようだ。
しかし今日は休みらしく、中には誰もいない。

「おら、来てやったぞ。さっさと出てこい朝食泥棒。」
「泥棒とは失礼にゃ。あたしは怪盗なのにゃ。」

一つのコンテナの陰から少女が出てきた。
というか……魔物?

『データ照合……一件該当。獣人型キャット種ワーキャットです。しなやかな体と高い身体能力を持つ獣人型の魔物のようですね。』
「あんたがタイガか。俺がブチ切れる前にさっさと朝飯返せ。」

彼女は呆れたように額に手を当てて肩をすくめている。なんかムカつくなこいつ……。

「どうやら綺麗サッパリ忘れているようだにゃぁ……キミのせいであたしは捕まることになったっていうのに。」
「はぁ……?俺がいつお前に何をしたって?」

少なくともワーキャットには知り合いはいなかった筈だ。
ましてや何かをやらかして捕まるような知り合いはもっといない。

「メテオストライカー事件の!キミにふっ飛ばされた怪盗にゃ!」
「随分前の事を持ちだしてきたな。しかし誰かをふっ飛ばした記憶なんて……」



──その時に貴方の通り道に運悪くこの町で盗みを働いた怪盗がいてね──

──「あああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ……………」──
──ん?何かが当たったか?──



「……あぁ、あの時の。」

漸く合点が行き、手のひらをポンと手で打つ。そうか、あの時当たったのはこいつだったのか。

「ようやく思い出したにゃ。お陰であたしはあの後気絶して御用になっちまったにゃ。務所暮らしは辛かったにゃぁ……」

なんか感慨にふけって涙を流しているが、ぶっちゃけどうでもいい。
盗みをしたのであるならそれ相応の罰を受けて当然だ。2,3ヶ月程度で済んだのであれば軽い方なのだろう。

「お前の苦労話はどうでもいい。さっさと朝飯返せ。」
『さっきからそればっかりですね。』

とりあえず朝食を取り戻すことしか考えていなかったので、何か適当なものを買って腹に詰め込んでくる事を忘れていたのだ。
お陰で胃の中は空っぽ、空腹も限界に来ている。

「んにゃ?さっきキミが持っていたアレならもう食べちゃったにゃ。美味かったにゃぁ……」

よく見れば彼女の口の端にケチャップがくっついていた。
その時、俺の中で何かが致命的な音を立ててぶっ千切れた。

「何か……言い残すことはあるか?」
「言い残すも何もキミはあたしにコテンパンにされて一生奴隷決定に……」

鵺をその場に落とし、自分でも驚くような速度でタイガに肉薄する。
怯んでいる隙を突き、肩を押し当てて呼
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