クリスマスというのはむか〜し昔の聖人の誕生日だ。
今ではその意識も殆ど薄れて、家族や親しい人達が集まって贅沢をする……という風習に変わりつつある。
尤も、経験なクリスチャンなんかは本当の意味でクリスマスを祝うのだろうが、まぁ今回はこの話はどうでもいい。
貧乏暇なし、という言葉の通り、俺みたいな万年金欠野郎がクリスマスだからといって休める訳も無く、その日もせっせと仕事をこなしていた訳だ。
……あぁ、思い出しただけでも泣けて来るな。
〜交易都市モイライ 居住区〜
『(3字方向距離20にターゲット。)』
「了解!」
袋の中から目的のブツを取り出し、駆け寄って郵便受けへと放り込む。
別に宅配テロという訳ではない。ある意味ではアルバイトのようなものだ。
『(十字方向の白い家。数は2です。)』
「はいよっと……忙しいったら無いな。」
また袋の中から配達物を2つ取り出し、ポストの中に入れる。
何を配っているかって?これが何かというのは30分ほど前に遡る。
朝起きて支度を整え、ギルドのロビーに顔を出すとミリアさんがハーピーの女性と何かもめていた。
どちらかと言うとハーピーの方が立場は弱そうだが……
「本当にお願い!」
「そうは言われてもねぇ……こちらだって手が空いている子なんて殆どいないし。」
話から推測するに、人手でも探しているのだろう。
今日はまだクエストを受けていない。すなわち俺にお鉢が回ってくる確率は……
「あら、アルテア。いい所に来たわね。」
100%だ。
まぁこちらとしてもクエストを探す手間が省けるので願ったりかなったりなのだが。
「何か仕事の依頼かい?」
「えぇ……ハーピートレイラーからクリスマスプレゼントの配達の人手が足りないって言われてね。こっち(冒険者ギルド)としても輸送手段に彼女達を使っているから断りにくかったのだけど、生憎皆出払っていて頼める人がいなかったのよ。それで……」
そこから先を手で制する。まぁ、言われなくてもわかるからな。
「分かった分かった、俺にその手伝いをしろと。別に構わないぜ?給料さえ出るならな。」
「話が早くて助かるわ。詳細はその子に聞いて頂戴。」
ハーピーはというと救いの神と餌が一辺にやってきたかのような表情で俺の方を見ていた。
これは……うん、警戒しておくに越したことは無いな。
「(ラプラス、フラッシュバンを出してくれ。1個持っていく。)」
『(了解。)』
鵺からフラッシュバンを抜き取り、グレネードポーチへと移す。
いやはや……普通のポーチを改造してまで手に入れておいて正解だったな。
「あれ?おにいちゃんは?」
「あ……ごめんなさい、アニー。もう仕事に出しちゃった……」
「────」
「楽しみにしていたのにごめんね?いつもより良いケーキ買ってきてあげるから……」
「いちごも……」
「う……わ、解ったわ。探してみるから。」(この時期に苺ってどうやって探せばいいのよぉ!?)
「配る所は結構多いけど……覚えられる?」
地図を広げながら心配そうに聞いてくるハーピー。ちなみにモイライ周辺の配達チーフをしているらしい。名前はソラ、だそうだ。
「問題ない。記憶力に関しては自信がある。」
ちなみに半分嘘だ。
広げられた地図をツールで読み込み、ナビゲートさせればいい。
実に便利、文明の利器とは素晴らしきかな。
ちなみに今回配って回るのはハーピートレイラーのイベント企画、夫婦円満セットだそうだ。中身は……うん、言うまでもないね。間違いなくそっち系の道具だ。
独身男性向けのサービスもしているそうだが……こちらはどちらかと言うと独身のハーピーがパートナー探しとして行うものらしい。
やれやれ……あの手この手で婿探しに忙しい事だ。
「俺はこの一帯を担当すればいいんだな?」
「うん、ちょっと広いけど……」
「何、走るのは慣れている。荷物を持ってなら尚更にな。」
あぁ、そうさ。鵺の扱いに慣れるために毎日あれを担いで5,6キロは走らされたよ。
1ヶ月ぐらいで慣れたけど。
それからはトレイラーの支部へ配達物を取りに行き、専用のコスチューム(例のごとく赤と白のアレだ。これも異世界人が持ち込んだものらしい)を着せられた。
しかし……なんで男物も用意してあるんだ?
「毎年この時期は忙しいからねぇ……。アルバイトを雇った時用に置いてあるの。」
「なるほどな」
そんな訳で、冒頭へ。
「配っている家の中では誰かがイチャついてんだろうな〜っと。はぁ、気が滅入る気が滅入る。」
『(マスターも休みを取って誰かと過ごせばよかったではありませんか。引く手数多でしょうし。)』
「バカ言え、誰かと二人で過ごすとなったら他の奴らが炎上するぞ。そんな事になるなら一人で過ごした方がマシだ。」
『
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