第七話〜ご褒美<おしおき>〜

『腕立て伏せは終わったか?それでは次は腹筋200回だ』
『了解です。中尉』

いつもの日課のトレーニングをする。姉さんは二人きりの時は姉さんって呼んでも怒らないけど、訓練とか皆と一緒の時にそう呼ぶととても怒る。

『手を抜くのはいかんが無理は良くない。無理だと思ったら迷わず報告しろ』
『了解』

こうしを一緒にしちゃいけないんだって。それに敬語をつかわないとだめだって。
難しくてたまに間違えるけど、姉さんはその都度優しく間違いを指摘してくれる。

『にじゅうっ!にじゅういちっ!にじゅうにっ!』

腹筋をするときに関わらず、筋肉を使う動作は声を出しながらのほうがいいって教えてくれたのも姉さんだった。

『さんじゅうろくっ!さんじゅうななっ!さんじゅうはちっ!』

ねえさんは最初、僕をうっとうしがっていたけれど、一緒にごはんを食べたりしているうちによく話してくれるようになってきた。

『ごじゅうろくっ!ごじゅうななっ!ごじゅうはちっ!』

もっと優しくなったのは、姉さんが僕の服を持ってきてくれて、それを着た時だった。
いろんなふりふりが付いていて、それを着た僕は女の子になったみたいだった。
姉さんが慌てて僕の部屋に入ってきて、その服を着ているのを見たとき、なぜか鼻血を出していた。その時から姉さんは僕と二人きりの時は凄くやさしくなった。

『はちじゅうろくっ!はちじゅうななっ!はちじゅうはちっ!』

言い忘れていたけど、僕が無理だって言っても姉さんはまだできるって言ってトレーニングを続けさせるんだ。だから最近は無理だって言わなくなったけど、倒れるまでやると姉さんは怒る。でも、なぜか怒っている姉さんの口はいつも笑っているのだ。
『ひゃくにじゅうさんっ!ひゃくにじゅうよんっ!ひゃくにじゅ……』

あ、お腹の感覚がなくなってきた……。バタリと倒れる僕。

『無理なら報告しろと言っただろう!ここが戦場であれば戦死しているぞ!』

姉さんが怒っているけれど、やっぱり口は笑っている。

『申し訳……ありません、中尉』
『貴様は休んでよし。食堂で朝食を取れ』
『了解』

僕がほとんど動かない腹筋をなんとか動かして立ち上がると、おやっさんが歩いてきて、僕の肩を叩いた。

『はっはっは!よく気に入られているなぁ坊主!あいつのあんな顔なんてそうそう見られるもんじゃねぇぞ!』
『痛いよおやっさん……。強くたたきすぎ……』

痛いんだけど、嫌じゃない。おやっさんって不思議な人だ

『こまけぇ事は気にすんな!さ、朝飯を食いに行こうぜ。と言っても合成缶詰とスープだけだがな』

おやっさんに肩を貸してもらい、食堂へ向かった。



〜冒険者ギルド 直営宿舎〜

「……。夢、か」

厳しいけど優しい姉さんと、豪快で人のいいおやっさんの夢。
でも、この二人は誰なのだろうか。自分の頭の中を探ってみてもどういう人なのか浮かんでこない。

「中尉と少佐……か」

もしかして、夢の中の少年は俺なのだろうか。だとすると、この夢は俺の過去の記憶?

「まだ何とも言えないよなぁ……」

俺はベッドを降りていつもの服に着替えると、鵺を担いでギルドのロビーへと降りて行った。
朝の日課のコーヒーを飲み終えると、受付で引き続き同じ依頼を受ける旨を告げ、昨日と同じ仕事場へ向かう。
ギルドを出る際、アニスちゃんが手を振って見送りをしてくれた。今日も一日が始まる……。
この時俺は気づいていなかったのだが、隠れるように丸耳と細長い尻尾が後を付けていた。

「セリフもらえなかった……シクシク」
と、これは受付嬢の言。



〜クエスト開始〜
―荷物運びを手伝って!2―
『昨日も受けてもらったと思うが、倉庫内の荷物はまだ片付いていないんだ。
可能であれば今日もお願いしたい。仕事の手順を覚えている昨日の人は歓迎するよ。
                                             リーエル商会』

〜リーエル商会 倉庫前〜

「おはよう!それじゃ、今日も頑張ってくれよ。仕事の説明はしなくても大丈夫だよな?」
「おはようす。昨日今日で忘れるほど鳥頭じゃありませんよ」
「そうか。それじゃよろしく頼むよ」
「うぃーす」

そうして俺は倉庫内に積み上げられている箱の山に取り掛かった。相変わらずすごい量だが、昨日のように見上げるほどでは無くなっている。頑張れば今日一日で運び出せる量だろう。

しばらく荷物の運び出しをしていると、唐突に鵺から警戒音が。

「やれやれ……またか」

呆れたように頭を掻きながら荷馬車の方へと向かう。
そこで待っていたのは荷物と思わしき箱を抱えた昨日のラージマウスだった。

「まだ懲りていなかったのか?もう少しお仕置きが必要だな」

ラージマウスは背中を向け
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