■第三次レスカティエ奪還作戦のための先行調査報告書

※以下は、暗号で書かれた文章をレスカティエ公立図書館で翻訳・抜粋し、時系列順に並べ替えたものである。

■第三次レスカティエ奪還作戦のための先行調査報告書
 記:サンドラ=フローレ/同行者:アレクセイ=ガーネフ

○到着まで

……先日来の数度の夜間行軍の際、多数の魔物を目視・魔力で確認。
 脅威度は低いものの、練度の低い兵士の行軍には適さない。
 レスカティエの城壁を目視確認。カッツェブルグを出立して十日後。
 旅程は別途記載。
 周辺の日照量の減少および魔力濃度の急激な上昇を確認。魔界化を認識。
 魔力拡散範囲は先日の予測より小規模。
 防御術式は有効に作動中。隠蔽・偽装術式も、現時点では問題無し。
 ただし、より原始的な反応で獲物を捕食しようとする触手植物には術式の効果が薄い。群生地は添付した地図を参照されたし。
 魔力溜まりも多数目撃したが、出現の位置、範囲、時間などに法則性は確認できない。行軍の際、重大な障害となるであろうことが予想される。

※私的覚書

 厳密にはレスカティエに到達してもいないというのに、往復したほどの疲労が身体に溜まっている。
 魔物との接近遭遇や交戦は避けられたものの、
 群生する触手植物や魔力溜まりを回避するために、
 結果として困難なルートを選択せざるを得なかったためだ。
 また、防御と隠蔽のための術式が身体に与える負担も予想以上に大きい。
 術式構成は必要十分だが、理力強度には一考の余地があるのではないか。
 しかし強度を落として魔力の影響を受けていては本末転倒だ。悩ましい。
 相棒は相変わらず沈黙を保っている。
 昔から感情を表に出さない人間だが、こういうときには頼もしく感じる。
 さあ、これからが本番だ。

***

○城壁周辺

 野営後、レスカティエ城壁周辺を探索。
 周辺のスラムが教団の記録にあるより拡大している。早朝にも関わらず、男女の交わりと思しき声があちこちから聞こえてくる。
 同行者の協力を得て、わざと足音を立てて走り回るも、反応するものは無し。直接的な妨害に及ばない限り障害とはならないと判断する。
 ただし街路が複雑であるため、またスライム亜種や人造物由来の魔物が擬態あるいは潜伏しているため、行軍には適さない。
 迂回もしくは焼却の要あり。
 城壁の防備は全体に薄く、上役の目を盗んで睦みごとに励んでいる兵士も一体や二体ではない。
 少数の騎兵や工兵による突破・開放が有効である可能性が高い。ただし、相当数のガーゴイルが彫像に擬態している。注意が必要。
 同行者に魔物が警戒らしい視線を送ってくるが、筆者の存在に気付くとその視線を緩めた。
 番と思ったようだ。潜入工作の際は男女二人組が有効だろう。防御術式を隠形から迷彩に切り替え、特に何事もなく城門を通過する。
 誰何には堕落神の信徒を名乗るが、特に怪しまれる様子もなかった。
 記述している時刻が深夜のため、宿舎についての報告は後の報告を参照されたし。

※私的覚書

 いよいよ魔物の群れの中に潜むことになる。
 失敗すれば私も連中の一員と成り果て、
 昼日中だろうとあさましく男を求めることになるのだろうか。
 冗談ではない。
 断固として私は生還し、レスカティエを我々の手に取り戻す手助けをせねばならない。
 我らが敵たる堕落神の信徒を名乗ったことは戒律上の罪科にはなるだろうが、大義のためとあればお目こぼしを要求してもそれほど酷い罰は受けまい。
 帰ってきたら懺悔をしよう……といったようなことを相棒に言ったら、珍しく笑っていた。何かおかしいことでもあったろうか?
 まあ、いいものが見れたからよしとする。

***


○宿屋

 城壁内部の魔力量は膨大であり、夜間であっても魔力知覚の術式にはむしろ昼間よりも明るい。夜間の隠密行動はほぼ不可能と見るべき。
 退路確保のため、宿は城門近くにとる。安宿だが調度や食事の質は高い。
 補給は潤沢であると見るべきだろう。
 食事。パンと家畜らしい乳、野菜スープにチーズ。
 魔力汚染が比較的低いと思われるため。
 ワインの原料果実は触手植物とのこと。任務中のため拒否。
 体内の解毒・中和術式は正常に動作中。
 驚くべきことに教団勢力下の諸通貨すら流通している。
 親魔物国家からの貿易か、、あるいは密貿易が行われているものか。
 本報告書の趣旨と反するのでこの方面の調査は行わない。

 寝室は同室。防音・遮光の部屋を選ぶ。
 魔法技術の発達と普及は重大な脅威となる。留意されたし。
 同行者の協力を得て、迷彩と偽装を中心に防御術式を書き換える。
 以後、本格的な探索に入る。

※私的覚書

 嘘をつきすぎて死ぬかと思った。
 宿屋のおかみには新婚夫婦であると言い、部屋を選ぶときには夫だけに独占
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