その後。
彼女が僕のお嫁さんになってから一ヶ月の時が流れた。
僕は彼女に夢中になり、その後一度も家に帰らなかった。
久々にドラゴンへの挑戦者が来る、と彼女が感じ取った。
どうやら山に入った時点で感知出来るらしい。
もう彼女は侵入者の相手をする気があまりないらしい。愛の営みを邪魔されたくないそうだ。
どこかへ逃げようか。誰も来ない場所に行こうか。と彼女は言う。
僕はそれもいいな、と思った。だけど、いや。違うなとも思った。
僕はね、まだ子供で、貴女の事と今まで居た人間の小さな世界しか知らない。
綺麗な物を見たい。美味しいものを食べたい。知らなかったことを知りたい。
僕は貴女と一緒に世界を見たい。
だから、一緒に旅をしよう。貴女とならどこまでも行ける。
きょとんとした顔で彼女は僕を見た。そしてすぐに彼女の顔は綻んだ。
「 行きましょう、旦那様。 何処へでも、何処にでも、共に。 世界の果てまででも。 」
僕達は財宝の全てを魔法のかばんに詰め、風の魔法を使い竜の巣から飛び立った。
そして僕達は共に大空を駆けた。
この地へ帰ることは二度と無かった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
とある地方都市の領主が息子を竜に攫われたとして騎士団を派遣した。
事情を知る騎士達は領主の掌の返しかたに呆れ返っていた。
あれほど見込みが無いと判断し、放置していた息子を今更取り返そうとは。
理由は分かる。主神の神官からの神託があったのだ。彼の者が勇者になる、と。
領主の息子がそのような力の持ち主だとは誰もが思っていなかった。
ちょこまかと騎士達の訓練を眺め、かと思ったら野山を駆けずり回っている。
次には蔵書室で魔法の本を眺めていたりもしたが彼には向かぬと誰もが思っていた。
自由気ままで自分勝手。帝王学の才は無く、身体は小さく、魔力の量も少ない。
更に言わせれば彼は五男坊であり、家督を次ぐ可能性も極めて低い。
領主も、騎士も彼を完全に見限っていたのである。
大人たちの誰の目にも入っていなかった。誰も彼をまともに見ていなかったのである。
それが勇者になる。と神託が告げられた時は領主は冗談か何かかと思っていた。
すぐに領主は彼の居場所を探したが、行方不明になっているという。
家族を完全に放置していた領主に今までのツケが全て回ってきた。と誰もが思った。
しかし情報が入る、平民達が一度だけ竜の姿を見たことがある。
そして五男坊様は竜に魅入られたのだと。
領主は私財を惜しげも無く投入し、竜と戦うための武装と人員を緊急で揃えた。
この時の散財が後に親魔物領へと併合された理由だと考えられている。
竜から息子を取り戻す、と正義を掲げ竜との戦争に挑んだ。
しかし竜の巣と噂された場所はもぬけの殻だったという。
竜が溜め込んだという財は欠片も無く、人の姿も見当たらない。
しかし、騎士の一人は目撃したと言う。男女二人の影が空を飛ぶのを。
大きさで言えば非常に小さい。だが、人影というにはあまりにも存在が大きかった。
騎士はその強力な存在、二つの影を表現するにはこう言わざるを得なかったのだ。
二匹の竜が大空を飛び去っていった、と。
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