メイドのエリザさん

僕の名前はウィリアム。
身分は元貴族だけど次男坊なので領地を継げない。だから僕はこの身一つで生きている。

今は地方貴族のお館様の元で代官として働いている。
お館様は人は良いし、決断力もあり上に立つ人としては有能なのだけれどもどうも数字に疎い。
人々の間に降りて住民と一緒に畑を耕しているくらいがちょうどよい人なのだ。
どうも書類仕事というものが苦手らしいので僕が雇われたことになる。
農業を主に行っている平和な地だけど、領地としては小さくないので誰か一人欲しかったらしい。
若手で、のんびりした気性がお館様に気に入られ僕はここにお世話になっているわけだ。

この土地は穏やかだ。さほど出世欲が無い僕にとっては理想の地だった。
なんだかお館様に仕事を丸投げされているような気もするけれど、そんなに辛い量じゃない。
何かあれば執務室で寝泊まりすれば良い位の仕事量で済むので僕としてものんびりやっている。

僕は今、お館様の領内にあるお屋敷を一つもらい受け、そこで生活し仕事をさせて貰っている。
そこそこ広いお屋敷ではあるけど、自分一人で屋敷を維持するのが限界になってきた。
長い独身生活で炊事洗濯掃除は得意だし、紅茶も自分で淹れるし一人の空間も嫌いじゃない。
だけどお館様が領内に橋を作ったり道の整備を行ったりする土木のお仕事を計画している。
文官である僕も忙しくなるわけで、趣味の炊事洗濯掃除に時間を割くことが出来なくなってくる。

というわけでメイドさんを雇おうと思ったのです。思っていたのです。
そう、そう思い立って募集でもしようかと思ったときに、我がお屋敷に来訪者が訪れました。



「こんにちは!産地直送メイドが今ならお得ですよ!」



キキーモラと呼ばれる種族の人懐っこそうなメイドさんが僕に押し売りしてきたのです。
結論から言うとその場で雇わさせていただきました。



*  *  *



「はい!私はパーフェクトなメイドさんを目指すエリザさんともうします!」


嘘をつけなさそうな顔をして妙な方向に自信満々そうな活発な彼女の自己紹介です。
この言葉を聞いた瞬間、僕は彼女を雇うことを決意いたしました。
いやだってパーフェクトなメイドさんを目指すって、おもしろすぎる。
彼女を一発で気に入ってしまった僕は契約内容を書類に認めながら彼女との会話を始めた。

「どうも、僕の名前はウィリアムだ。これからよろしくね」
「よろしくお願いしますご主人様!これから私の劇的なご奉仕を是非味わってください!」

劇的なんだ。

「どうして僕の所へ?確かにメイドさんは欲していたけれどまだ募集はしてなかったんだけど」
「勘です!」

素晴らしい。

「ここは親魔物領だけど魔物の数は少ない。やっていけそう?」
「いけます!メイドの修行をしていた時の上司に"明るさだけは合格だ"と言われましたからね!」

期待以上だ。

「ではメイドとしてのお仕事に自信のほどは?」
「私の座右の銘は、努力と根性と忍耐があればなんとかなる、です!」

予想を上回った。わーい僕の仕事が増えるぞ。

「よくメイドで身を立てていこうと思ったね?」
「メイド道に殉じた身としてはそれ以外の道はありえないのです!」

メイド道!そういうのもあるのか。

「というかその受け答えは自覚しているね?」
「こまけぇことはいいんですよ!と偉い誰かが言ってました!」

契約をメイドとして雇うか、コメディアンとして雇うか非常に迷うな。
断腸の思いでメイドという扱いにして契約を成立させた。


「しかし、よく私を雇いましたね…!」
「君が驚くほうなの?いやぁ、僕はどうも変人と呼ばれているらしくてね、自覚は無いんだけど」
「ふふふ、後悔してくださいねご主人様!もう契約は成立しました…!」
「試用期間はしっかり契約に表記してあるよ」
「いやですねご主人様!私を雇ったこと後悔なんかさせませんよ
#9829;」
「ははは、楽しみにさせてもらうよ」


いやだって絶対楽しくなるでしょこの娘。



*  *  *



一週間が過ぎた。
エリザさんは根性回路フルスロットルで努力を空回りさせていく。
一応前に進んでいるからただのドジッ娘ではないところは評価したい!

「聞いてくださいご主人様。私は洗濯をしていたんですよ!朝から、いままで。ついうっかり!」

もうお昼を過ぎてティータイムの時間だ。
今日のお昼はお館様のお屋敷で頂いたのでエリザさんは自分のお昼を抜いたことになる。
二人分の洗濯でそこまで時間がかかるのはエリザさんくらいだろうなぁ。
いやうん、別に悪いことじゃない。ちょっと染み落としとかに本気になっちゃったらしい。
更に他に汚れ物は無いかと箪笥の中に入った衣服やカーテンなどの洗濯が突如始まっていった。
昨日の料理
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