「・・・・・・」
「ええっと。俺、嫌われてるのかな……?」
首を強く横にぶんぶんと振る。リアクションはかなりオーバーだ。
良かった。なにせ彼女から全く言葉を貰うことが出来ないから判断に困っていたところなのだ。
今日はセティリアの相手をすることになっていた。
彼女の愛称はセティ。皆に習って俺もそう呼ばせてもらう。
レティとは中の良い姉妹であり、どちらが先に子供を授かるか無邪気に競争しているという。
競争するような内容では無いとは思うけど、ツッコミをいれるのは野暮で無粋な気がした。
セティは無口で若干の引っ込み思案だという、まるで文学少女とでも言うべき風貌をしていた。
その無口さは徹底している。なにせ俺は未だに声を一回も聞いたことが無いほどなのだ。
セティは喋れないわけではない。喋ると危険だから喋ろうとしないのだ。
言葉には力が宿る。日本でも言霊という言葉が存在する程、言葉には影響力があるのだ。
魔法とか、よくわからない法則が存在する世界においてはそれは更に顕著になる。
彼女は呪い師としての能力が高いために軽々しく言葉を紡ぐことを避けているというのだという。
皆からは、喋らなくても伝わるから安心してと言われていた。
だから俺はゆっくりとセティを相手にして"会話"を始めた。
引っ込み思案と言われていたが、とても表情が豊かで俺の言葉にしっかりと反応してくれた。
上品に笑い、興味津々に話をねだり、話に聞き入って夢中になり、驚き、悲しい話で涙ぐむ。
静かに、しかし確かに俺の前に感情を曝け出してくれた。とても可愛らしく、女性らしい人だった。
無言ではあったが、とても真剣に俺との会話に集中してくれた。
いや。会話に集中しているというよりは……
頬を赤く染めながら、うっとりとしてとろんと蕩けた目で俺を見つめている。という表現が正しい。
……俺の勝手な思い込みでなければ、これは恋する乙女の目なんですが……
恋愛経験0だった高校生が女性の表情から相手の思考を読むスキルを持っているわけは無い。
しかし、こんな表情や仕草をスルーできるほど鈍感な男ではない。
これが漫画だったら目がハートになっているだろう、というくらいの熱い視線なのだ。
俺に完全に見蕩れている。気がついたらキスが出来そうなくらい顔が近かった時もある。
そして徐々にではあるが、セティは俺との距離を積極的に縮めていった。
さり気なく俺の手を握って、いつの間にか身体を寄せて、その豊かなおっぱいが腕に触れていた。
たゆんたゆんでぷよぷよでぷにゅぷにゅでふよふよでぷるんでやっぱりたゆんたゆんですよ。
俺の意識の7割がおっぱいで支配されていた隙にセティは更に急接近してきた。
だれだセティが引っ込み思案って言った人は。めちゃめちゃ積極的なんですけど。
セティは柔らかい手を俺の手に自然と重ね、指を絡めてきた。
セティに触れているところから熱が確かに伝わってくるのを感じる。
興奮しているというよりは、幸せで温かい、そんな感じのぬくもりをセティから感じた。
更にセティは俺の肩に頭を載せて、幸せそうにスリスリと俺に甘えてきた。
なんで?
話に聞いていたセティの性格とまるで違うような、積極的なスキンシップに俺は困惑していた。
いや、こう、魔物と化した状態で、性欲が非常に強くなっている、というのはわかる。
もしくは、一目惚れとかで、俺に対して多大な興味を持っているということも、理解できる。
しかし、セティの熱の入り方は、違うのだ。つい最近出会った相手に対して行うことではない。
セティが行っていることは、"最愛の恋人に対しての愛情の確認を行っている"ようなことだ。
そんな、妙な感覚。違和感。
俺は、恐る恐る疑問を口に出した。
「……セティ……さん?あの、何をしているのでしょう……か」
「・・・・・・」
当然ながら無言。
しかしセティは俺から少しだけ離れて、俺の顔、いや瞳をしっかりと見つめてきた。
その瞳が訴えるものを俺は察することは出来なかったが、とても、悲しそうに見えた。
そのまま、表情を変えず、ぽたり、と目から雫が滴り落ちた。
俺はその涙に驚き、硬直した。そして、セティに対して言葉を発する前に耳に音が届いた。
「 ごめんなさい 」
綺麗で、透き通る声をしていた。
「・・・ハヤト、さん。わたし、あなたが、すきでした。ずっと、すきでした。」
初めて聞いた透き通るような彼女の言葉は、確かに恐ろしい呪いの威力を持っていた。
その言葉は比喩でなく俺の心に伝わり、燃えるような激しい恋情を直接知ることが出来た。
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