司祭セシル


「僕は、元男なんだ。魔王の魔力に適合してしまって、女性に変化してしまった。
 自分自身を不甲斐なく思うよ。君の力を借りなければならない現状も、僕に責任がある」


銀のウェーブの掛かった髪を揺らしてセシルは嘆いた。青く透き通った瞳から涙が溢れる。
彼、いやもう彼女だ。男に戻れる未来は存在しない。彼女の懺悔のような言葉を俺は受け止める。


セシルは古いエルフの祭事を執り行う司祭である。ドルイドと呼べばわかりやすいだろうか。
非常に気弱な雰囲気とは裏腹に、その役目と知識はこの里にとって必要不可欠な存在なのだ。
しかし、受け持っている役目を考えると、この現状はセシルにとっては責任を感じているらしい。


セシルは、俺が生まれるはるか前の話ではあるが、男性だった。らしい。
魔王が代替わりして、早いうちにその魔力に当てられ、女性へと変貌してしまったのだとか。


彼女、俺は男だった時の彼の姿を知らない。そのためにセシルを女性としてしか扱えないだろう。
エルフはそもそも男女の差が薄く、元男性という事実は忌避感を覚えにくかったらしい。
穏やかで女性的だった性格が、本当に女性になってしまっただけなのだとか。
彼女達に聞いてみると「むしろなんで男だったのかしらねぇ」と言われる程だったのだとか。


「うう・・・すまない。女性の身体になってから涙もろくて・・・
 十分の一程度の年齢の男に甘えるとは・・・本当に情けないよ。」
セシルの心は落ち着かない。流石に俺もどうしたらいいのかわからなくなってきた。


「セシルの気持ちが落ち着かないなら、今回はやめておいた方が良いかもしれないな。」
それがお互いのためだろう。流石に不安定な時にするのはやめたほうが良いと思う。


「・・・っ。大丈夫だ。これで務めを果たせないとしたらそれこそ自分を許せない。」
だから、僕は大丈夫、と儚げに笑った。その姿は美しく健気さを覚えた。


・・・この人マジで元男なのかなぁ?全然違和感ないんだけど。
俺はちょっとこの人が元男性として認識が全くできない。彼女の雰囲気はまさに薄幸の美少女。
・・・里ぐるみで騙されてるのかなぁ?そのような妄想を覚えるほど、彼女は女性的だった。


「・・・分かった。セシルが良いなら、俺も余計なことは言わない。
 だけど、無理だと思ったら直ぐに言ってくれ。無理矢理はしたくないんだ。」


セシルの心を占めているのは罪悪感なのだろう。ずっと俺に謝るように接してくる。
魔王の魔力に犯されなかったらこのようなことにはなってなかった。そう彼は思っている。
いや、結果論だ。里に男性が居なくなった事は、それが直接の原因ではないのだから。


「ハヤト君・・・ごめん、君にはいくら謝っても尽きることはない。
 君が望むなら、僕のことは好きにして構わない。僕が君を巻き込んだようなものなのだから」





・・・なんだろう、この異常にむらむらとする感覚。





なんだろう。謝られていることで、妙な感覚を覚える。
こう、なぜだか物凄く責めたくなるのだ。




「・・・どうした?・・・そうか。元男なんか君にとっては気持ち悪くて抱けないだろう。
 僕は女性としての役目も務めることが出来ないのか・・・すまない。申し訳ない・・・」

「そうじゃない、いや待ったそうじゃない。ちょっと待って。」





わかった。







彼女は天才だ。







「あの、俺が今からやることが本当に嫌なら言ってくださいね。直ぐにやめますから。」

「・・・?わかった。しかし君に逆らうつもりはないよ。本当になんでもするつもりだ。
 君にはいくら謝っても、僕の言葉は尽きないのだから。」


健全すぎる男子高校生を一気に不健全の道に叩き落としてきた。
何やっても怒られない。好きな子を苛めたくなる。そして本人がそれを望んでいる。



いじめられっ子の天才だ。



「・・・俺の国での、最大限の謝り方があります。
 土下座というのですが、大変屈辱的な、地面に頭を擦り付けるような姿勢です。
 それを要求します。嫌ならホントやらないでいいですからね。」


・・・断ってくれ。俺を不健全な道へ導かないでくれ。


しかしセシルは、俺の説明したとおりの姿勢をしてきて謝ってきた。


「・・・ほら、謝ってくださいよ。ぼくは貴女の変わりにこの役目をやっているんですよ?」


あまりもゲスな自分の要求。自分を客観的に見たら自分に引くレベルの最低な言動だ。


だが。


「・・・ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい、ごめんなさい!」


あの。





謝っているのに、なんでそんなに嬉しそうなんですかねぇ・・・





セシルに頭をあげるように要求した。

泣きそうな顔で上目遣いで俺を見
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