「ハヤト殿。貴方は我々エルフの秘術によって召喚されたのです。」
エルフの集団に囲まれている俺は、目の前のエルフの長、シルヴィアと言う人物から告げられた。
10人に囲まれているが全員が全員呆れるほどの美人である。流石エルフと言わざるを得ない。
俺は異世界に召喚されたらしい。
異世界召喚モノは健全な男子高校生として当然憧れるようなシチュエーションではある。
でも、実際にこの身で体験したらとてもじゃないが、理不尽な目にあってしまったと思うしかない。
「貴方に頼みがあるのです。どうか私達全員の夫となって私達を孕ませて頂きたいのです。」
シルヴィアは真剣な面持ちで衝撃の事実を俺に伝えてきた。冗談は言っていない表情だ。
夫だって?いや待った。しかも全員?この場に居る全員?10人も居るぞ?
確かにハーレムなんてものは男の夢のひとつである。
だが、それを突然求められたとしても困惑しか俺の脳内には思い浮かぶことはない。
しかし、こんなことを言い出すのだ。余程深刻な状況であるのは理解できた。
「なんで俺が召喚されたのかもわからないし、突然そんなことを言われても困るだけだ。
だけど、わざわざ異世界に居る男を召喚したっていうんだったら理由があるんだろう?」
ともかく俺はこの状況の説明を求めた。どうやら異世界でも意思疎通は問題なく出来るらしい。
俺の質問は、彼女たちが何故そのような選択をしたのかの理由が不透明だからだ。
エルフって人間を嫌っているんじゃなかったでしたっけ?普通ならハーフが出来るんじゃないの?
そうしたらシルヴィアは説明をしてくれた。
まず、この世界には魔王という存在が世界の魔力を変質させてしまった事を説明された。
その魔力はエルフも例外では無く、長い年月を掛けて女性しか生まれなくなってしまった。
残っていた10人が全て魔物になってしまったという。
そもそもにしてこの里に男性は少なく、様々な理由で里から姿を消してしまっていたという。
あとハーフは出来ないらしいです。
「この里は古から続くエルフの森で一種の異界なのです。
私達以外のエルフも、人間も存在しません。。
我々の秘術の一つに未来を占うことも出来ますが、絶望的な結果しか現れませんでした。
もう、この後まともな手段では男性が現れることはあり得ない。
だから、里を存続させるために貴方を召喚させて貰ったという事になります。」
更に彼女たちはこの森を離れることは出来ないらしい。
この森はエルフを介してバランスを取り持っているらしく、去ると森に滅びが訪れるとされている。
その広さはなんとアマゾンくらいの大きさらしい、異界だから他の地域と干渉しないのだとか。
この森が滅ぶのはこの世界にも重大なダメージを与えてしまう。
だから、彼女たちが子孫を残すために男性である俺が呼ばれることになったという。
「なんで、俺が呼ばれたんだ?選ばれたのか?それともランダムだったのか?」
とても深刻な事態だとは俺も理解できた。手伝ってあげたいとは思う。
だが、俺も強制的に呼ばれて女を抱けと言われて腰だけを振るマシーンになりたくない。
だから俺が選ばれた、という理由を聞きたかった。
強制的に連れてこられたのだ。ならば俺である意味が、少しでも欲しかったのだ。
そうしたら、シルヴィアは少し躊躇いながら、しかし俺から目を離さず語った。
「皆を愛してくれそうな人を呼びました。皆を平等に愛してくれるような、そんな人を。
貴方本人を直接選んだわけではありません。ですが。貴方ならば、良いと思えました。」
そう、告げられた。誠実な答えだった。
実際には異世界にまで繋げるつもりは無かったらしい。繋がってしまった、というのが正しい。
俺は、彼女たちの希望に該当する"誰か"ではあったかもしれない。
でも、彼女たち皆で決めた答えではあった。
「だから、私達は。私達が選んだ貴方の決定に従うつもりです。
送還することも、可能だと思います。方法は教えることが出来ません。」
その方法は、聞いてはいけないと思った。
聞いたら絶対にその方法を俺は選べなくなる。そんな予感すらしたのだ。
俺に断られたら緩やかな滅びを迎えるかもしれないが、それは俺には関係ない事。
そう。俺には本当に関係のない出来事なのだ。だから、気にしなくて良い。
シルヴィアの美しくも、儚い表情から俺は本能的に察した。
「・・・本当にそれで良いのか?」
本当なら俺の意思など関係なしに無理やり事を成すことも出来ただろう。
俺の意思などただ日常を謳歌してきた意思薄弱な男子高校生なのだ。
籠絡するなり、薬漬けにするなり、いや異世界だから魔法を使うことも容易いはずだ。
だが、彼女たちはそれを良しとしなかった。
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