いつかの終わりに語られた笑い話




少女は病に侵されていた。

成人までは生きられぬ。現代では治すことが出来ぬ不治の病である。
専属の医者にも、神の奇跡で病を治すことが出来る神官にもそう告げられていた。
少女に未来は無い。



少女はそれでも懸命に生きていた。
病に侵されながらも本を読み、自分が知り得ぬ事をよく学んだ。
様々なことに興味を持ち、調子が良い時は外を歩き、自然に触れた。
少女の周りはとても平和な世界が広がっており、同い年程の少年少女が駆けまわり遊んでいた。


お前もまざれよ!と少年の一人が言う。


少年たちは今から色んな場所に探検に行くらしい。
身体が弱いからと言って少女は断った。少女は彼らを見ているだけで楽しかった。


そっか。身体弱いんじゃ仕方が無いな。
でも、興味津々って顔してんな!どんなところへ行くか話してやるよ!


と誘ってくれた少年は少女の隣に座り、いつもの大冒険を語ってくれた。
少女にとっては本にも載っていない未知の世界の話である。
見えるような場所にある、本より遠い世界のとても愉しい話。


少年は話が上手かった。
普段の日常生活を少年が語るだけでまるで全てが大冒険に聞こえてくる。
少々話を大きく盛る癖はあるものの、人を楽しませようという性根の良さが伺えた。


日常の家族の手伝いは使命を帯びた騎士道物語のように苦難が待ち受けている。
大家族の兄弟の食事風景は貴族たちの命を掛けた決闘の真剣勝負の如く語られた。
お駄賃を得るための買い物は商人達の勢力争いに比喩して博打じみた交渉劇に仕立てた。
少年少女達が遊ぶ様子は未知の世界への開拓者達の冒険の数々として少女の耳に入った。


少年は歌も好きだった。少年のその透き通る声は空まで届く気がした。
少年の歌はとても明るく、聞いていると自然と元気が出てきた。


少女は少年が好きになった。
少年も少女のことを好きになっていった。
少年も少女もとても素直であり、互いの気持ちを隠すこと無く伝えた。


俺の話をいつも聞いてくれるし、頭いいし、美人さんだし、いうことねーよ!


でも、少女は自分の運命を知っており、それを少年に伝えた。
少女の親は人知の限りを尽くしたのだ。しかしそれでも少女の運命は変わらなかった。



少年はすべてを知り、それでも少女のことを愛した。



真実を知った少年は、少女に毎日会いに行った。
少女が好きな歌を歌い、少女が聞きたい話を語り、少女が好きな自分と時を過ごした。
日に日に少女は弱っていく。しかし少年は少女のためにやめなかった。
少女の両親も、少女の幸せを願い少年を止めることは無かった。



少女は幸せだった。











よく晴れた日だった。



少年は未来を語った。
少年は少女が学んだ本の話を語る。
主人公は少年と少女になり、全ての話をつなげた大冒険だ。
騎士の話があった、貴族の話があった、商人の話があった、冒険者の話があった。
どれもこれも少年と少女は窮地に陥りながら機転で潜り抜けるハラハラドキドキの冒険譚。
少年は、これから先も物語は続いていくのですと。物語を終わらせること無く語りを終えた。



少女は笑った。少年の話がおかしくて、少年の話が優しくて。心の底からの笑みを浮かべた。



少女は笑いながら、少年におやすみと告げた。
少年にいつもの明るい歌を頼んで少女は眠りについた。


少年は歌った。底抜けに明るく、幸せな恋の歌を少女に歌った。


そして、歌い終えて少年は少女に、おやすみ。と告げた。


少女は最後に笑って命を終えた。

























少年は旅に出た。少年は吟遊詩人になるという。
少女の親は少年を支援し、少年の活動を手助けした。


少年が語るのは悲恋。しかし、その別れの歌はとても明るいものであった。






いつまでも終わらないものなどないと知ったから。
いつか来るさよならも愛せるほどに君と駆け抜けよう。






そう、少年は少女との別れすら愛した。だから少年は空へ至った少女に届けるため空へ歌う。



少年は世界を駆け巡る。空の何処かへ居る少女のために。
別れは寂しいものだ。だけど、いつかかならず訪れる。
だから愛そう。その全てを愛そう。誰かの声が聞こえたら。空まで叫ぼう、心からもう一度。



少年は物語を紡ぎ、その物語は愛を語った。
旅の途中、少年は様々な出会いと別れを繰り返し、その出会いと別れを愛した。
その全てを物語り、その全てを歌い上げた。









少年は歌を歌う。空まで届けと歌を歌う。


誰かに届くように少年は歌を歌う。


少年の歌は空に響き、世界を照らした。










































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