クソ師匠とクソガキ

私は自分に師匠と呼ばせる人が嫌いだった。


その人はたった一ヶ月の間だけ私の指導をした人だ。
師匠から教えてもらったことは本当に少ない、なにせ本当に教えてくれなかった。
嫌らしい笑みを浮かべて、嘲笑うかのように飄々として、出し惜しむように何も言わない。
それでいて、周りや私の上司はその人から学べ、という。


ふざけるな。と、私は思ったのだ。
こんな男から学ぶことは何もない。本当に、本当に時間の無駄だ、と思っていたのだ。


なにせ私は幼いころから様々な訓練を積み上げ、技術や体術の研鑽をし続けた。
正直な話、純粋な実力で言えば師匠は私と比べ物にならない位弱いと思う。
技術に関してもこんな男の何処に技の精緻さがあるのかと本人を前にして不思議に思う。


この男からは何も感じない。
熟達した人物からは何かを感じることができるものだ。
例えば一流の戦士であったり、一流の魔術師であったり、一流の聖職者であったり。
その人物が居るだけで空気が引き締まるような、そのような物を感じることが出来ると思う。
しかしこの男からは本当に何も感じなかった。



故郷からはるばる遠くまで着て、こんな男に師事を受けねばならない理由は分からなかった。




だから私は師匠。"影猿"のクリフが嫌いだった。




*   *   *



私の名前は楓。種族はクノイチであり出身はジパングの忍の里。
忍の里の中では体術や隠密の技術は天才的とまで言われた才能があったんだ。
でも、性格は他の皆とは似ても似つかない。自分でも分かる意地っ張りだった。
実力はともかく性格がクノイチとして重要な任務を任せられないと頭領が判断したのだ。


うん性格のせい。体型のせいじゃない。性格のせい。


なによ!いいじゃない貧相なクノイチがいたって!まるで子供とか言わないでほしいわ!
房中術!?なにそれ!?私にかかればどんな男だっていちころよ!バカにしないで!
背が低くて胸がなくておしりも小ぶりで肉付き悪くて少女というよりガキ、ってくらいよ!


・・・くすん。


ま、まぁ大丈夫よ大丈夫。私は別に房中術なんか磨かなくてもいいの。
こんな私でもステキな人が現れてその人は私だけを見てくれて見事にハートを暗殺してみせるの。


・・・なによ。何が言いたいの。いいでしょ別に。わかってるわよ。ふん。



それでなんでこんなところに居るかって?
クノイチは世界各地に傭兵として駆り出されてるのよ。
ここは現行魔王の勢力に属する魔都だしね。当然私達も多く駆り出されたわ。
でも、私は他の皆と馴染むことが出来なかった。いや、別に他の皆が悪かったわけじゃない。
私が一方的に意地を張っていたのは、わかってた。悪いのは私だ。

でも、それを認める簡単なことが出来なくて、仲間が私から離れていって。




私は一人ぼっちだ。






*   *   *






第一印象は最悪そのものだった。




「 あぁ・・・? なんで俺が子守なんぞせにゃならんのだ。 」
子守と言ったか。

「 ウチの出身と同じジパングから来た子なんやけどね。
  ちょっと性格がキツくて魔王軍の斥候部隊でも馴染めないらしいんよ。
  優秀な子やから単独任務熟せるように冒険者達で指導してくれ、と言われとってなぁ。
  クリフがわざわざご指名されてるらしいんよ?頼まれてくれへん?  」
性格がキツイとは自覚はしているけど堂々と言われると少しヘコむ。

「 ・・・どれが原因なんだろうか・・・身に覚えが多すぎていまいちよく分からん。
  まぁ、だがアンタから頼まれれば仕方がねぇわな。請負うぜ。
  その代わりちょっとくらい品物安くしてくれよ。たまにはいいじゃねぇか。 」

「 何言っとん。ウチはいつもお互い幸せになれるような商いしとるよ? 」

「 一個人だけやったらめったら安いじゃねぇか。 」

「 そりゃ旦那様だけは別や!むしろ旦那様だけにしか売っておらへんものも・・・ 」
なんできゃーきゃー言いながら頬を赤く染めて嬉しそうにしているのか・・・
いいなぁ。



形部狸の商人と話がついたあと、男は火の着いたタバコを咥えながら私に話しかけてきた。



「 さて、仕方がないな、おいクソガキ。 」
「 クソガキじゃありません、楓です。 」
「 ああ?お前なんぞクソガキで充分だ。
  俺様がお前の指導をしてやる"影猿"のクリフだ。 俺の事は師匠とでも呼んでいいぞ。 」
「 ッチ、なんでこんな男に師事を受けなきゃならないんですかね。 」
「 おーおー、目の前で舌打ちと悪態を吐くその性根の悪さ、気に入ったぜ。
  思う存分可愛がってやるから覚悟しろクソガキ。 」
「 クソガキって呼ぶなら私もクソ師匠って呼ばせてもらうわ。 」
「 っは
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