私は、何をしたかったんだろう。
薄っぺらい娘。と言われて、ソフィリアは本当に何も言い返すことが出来なかった。
私は魔王の娘で。私はリリムで。私は偉くて。私は美しくて。私は強くて。私は賢くて。
私は。
私は誰?
私は、なんて。
なんて、つまらない、人生を。送っていたのだろう。
* * *
苦しい。息が苦しい。でも。
そう、そんなつまらない私でも。
「 私の、負け。です。 」
この敗北すら認められないほど愚かではなかった。
やっとソフィリアは認めることが出来た。
王子に私は完全に敗北していた、というその事実を。
幾ら戦っても王子に勝つことは出来ない。
そう、王子の前では私に付随している何もかもを剥ぎ取られていたのだ。
武力。魔力。権力。財力。魅力。
ありとあらゆる力から私を切り離し、この狭い戦場に私を押し込んだ。
この戦場に立つのは私だけ。この戦場で頼りになるのは私の頭と心。
私の頭が劣っているか、といわれると、今になってはそれは分からない。
だけど、心が余りにも足りていなかった。そう、それだけ。
そんなことにやっと気がつくことが出来たのは、自分の敗北を認めることが出来た時だった。
* * *
情けない。自分が滑稽にしか思えない。恥ずかしい。何もかも投げ捨てて逃げたくなる。
人の目から隠れたい。こんな私を見ないでください。私が愚かでした。ごめんなさい。
やめてください。怒らないでください。悲しまないでください。憐れまないでください。
泣きたい。でも泣くことなんて許してもらえない。泣いても許してもらえるわけがない。
俯いた所で私がやったことは覆らない。無駄に言い訳しても自分の見苦しさが増すだけ。
過去は変わらない。過去の自分を殴りたくなる。殴りにいけるなら今すぐ飛んでいきたい。
ここから去る事も、ここに残っている事も許されない。辛い時間がただ流れるだけ。
バカみたいな理由で私は何人もの人間を不幸に陥れたのだろう。
浅ましい私の考えを、選択を、許してください。
いや、もう許されることはない。
なにせそれを自分が許すことが無いから。
今まで何人の男を見下してきたのだろう。今まで何人の女を軽蔑してきたのだろう。
導くつもりで、教えとくつもりで、皆が幸せになる道を選んだつもりで。
私は何よりも自分のことしか考えていなくて。
なんて、なんて。
なんて醜い女。
こんな所で悲劇のヒロインを気取っているつもり?
冗談でしょうソフィリア。未だに貴女は自分を許してあげたいの?
あはは。
死んじゃいなよ、ソフィリア。
* * *
「 提案があります。いえ、私が一方的に敗北時の条件を加えるだけです。 」
「 何、大したことではありません。賭けの代償を追加するだけです。 」
「 そうですね、この対局が始まってから一年がいいですね。 」
「 この一年の間までに私が敗北した場合。 」
「 私の命をさし上げましょう。 」
「 ソフィリア様。 貴女は私との戦いに何をお賭けになります? 」
「 いえ、私は一方的に勝負を不利にさせただけです。何もお賭けになる必要はありません。 」
「 ですが。 」
「 ・・・ 」
「 そう、その目だ。 」
「 やっと貴女と向き合うことが出来た。 」
「 ソフィリア様 もう一度貴女に問います。 」
「 貴女は私との戦いに何をお賭けになります? 」
* * *
王子の提案を聞いて、私はやっと自分に向かい合える気がした。
なんのことはない。王子に出会うまで私がただ成長していなかっただけのこと。
やっと転ぶことが出来た。やっと起き上がる事ができた。
これから何度も転ぶだろう。これから何度も起き上がるだろう。
不屈の意思で立ち上がり、決死の覚悟で踏みとどまり、這いつくばってでも戦いぬく。
まるでお伽話に聞く勇者だ。
そう。
王子は私の魔王になってくれた。
どんなお伽話でも聞いたことがない、逆転した物語。
そう、私は今から。
勇者になって魔王に挑みに行くのだ。
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