花の日常 (毛娼妓)

飴屋さん

「おとうちゃんおとうちゃん」

「なんだい、花」

「あそこに飴屋があるね?」

「おう、あるな」

「かって?」

「駄目だ」

「駄目なんだ」

「そう、駄目だ」

「……女の人には高いバックかってあげる癖に、娘には安い飴一つも買ってあげないなんて、あーあ、飴で口閉じてないとお母さんに言っちゃいそうだなぁ……」

「な、なんの事だ? えっ? 言ってみな?」

「夕夏ちゃんのお姉ちゃんとおててつないで楽しそうだったなぁ……」

「…………水飴か?」

「林檎飴」

「一つだけだぞ」

「早めに口が空いちゃうなぁ」

「……二つだ」

「おとうちゃん大好き!」

「……どうしてこうなった」



落とし物

「おとうちゃんおとうちゃん」

「なんだい、花」

「このピアスおとうちゃんの部屋に落ちてたんだけど、誰の?」

「ん、お母さんのだな」

「ほんとに?」

「何だその目は、おとうちゃん何も悪いことしてないぞ?」

「夕夏ちゃんのお姉ちゃんが同じのつけてたような気がする」

「それはない、これはおとうちゃんが自分で作った物だからな」

「むぅ、引っ掛からない」

「こら、親を騙そうとするんじゃないよ?」

「わかったよー」

「はぁ、まったく」

おかーさーん! これなにー?

あら……どこで見つけたの?

おとうちゃんの部屋の中

そう、ありがとう、冷蔵庫にケーキがあるから部屋で食べなさい?

え? ケーキあるの? やったー!

「何を見つけたんだ……?」

「ねぇ、あなた」

「どうした葵?」

「これは何かしら?」

「…………話せば分かる」

「では、聞かせてもらいましょうか? 何がどうなったら、この名刺があなたの部屋に落ちるのかを」



仲直り

「おとうちゃん」

「……なんだい? 花」

「お母さん怖かったね」

「久々に怒られた、お前もお母さんを怒らせないようにな?」

「うん、わかった………ねぇ、おとうちゃん?」

「んん、どうした」

「途中からお母さんとおとうちゃんさ? あん、とか、いく、とか、だめ、とか言ってたけど、どこに行こうとしてたの? だめって何をしようとしてたの?」

「えー、あー……あれだ、仲直りしてたんだよ」

「仲直り?」

「そう、仲直りだ」

「……どこに行こうとしてた…………」

「時が来れば分かる」

「今知りたい」

「今は駄目だ、時が来れば分かるから待ちなさい」

「……おとうちゃん達がやってた仲直りのやり方を知りたいだけだよ? 駄目なの?」

「駄目だ」

「ちぇ、ずるいよ…………」

「まぁ、これでも舐めとけ」

「わーい、チョコレート!」



髪の毛

「おとうちゃんおとうちゃん」

「なんだい、花?」

「にひひ、見て見て、結構伸びたと思わない?」

「おっいいじゃないか、花、少し膝に座りなさい」

「わかったー」

「よしよし………………しかし、大きくなったな、昔は腕に収まるぐらいだったのにもうこんなに大きくなって」

「えっと、成長期ってやつだからね! とうぜんだよ!」

「ははは、そうか、じゃあ好き嫌いせずにきちんと人参を食べるんだぞ?」

「それは……ううう……がんばるよ……」

「声が小さいぞ?」

「がんばるよ!」

「おう、頑張れ」

「にひひ……ねぇ、おとうちゃん」

「んー? どうした?」

「結婚てさ、いつから、できるの?」

「そうだなぁ、十六歳になったらできる」

「そう、なんだ、じゃあ、あと十年待たないと、駄目、だね」

「そうだな、 相手が見つかったら、ちゃんとおとうちゃんに言うんだぞ?」

「う、ん……」

「花? もじもじしてどうした? トイレか?」

「ち、違うよ、あ、あのね? おとうちゃん」

「うん? なんだ?」

「私ね、おとうちゃんと……」

「おとうちゃんと?」

「おとうちゃんと結婚するの!」

「そうかぁ、それは楽しみだ」

「がんばるよ!」

「おうおう、頑張れよ」

「うん!」







成長期

「お父さん、お父さん」

「…… お……う……頑張れ……よ……」

「ふふ、寝言? どんな夢を見てるのかな楽しそう、でも起きてもらわないと……お父さん! お父さん!」

「んあ……ふぅ、んぅ、おはよう、花」

「おはようお父さん、寝言いってたけど、どんな夢を見てたの?」

「お前が小さい頃の夢だったな」

「へぇ、いくつの頃?」

「ええと、多分六歳ぐらいだったはず」

「六歳?」

「たしか、おとうちゃんと結婚するって言ってた」

「うん、六歳ね、あの時お父さんに言ってから色々頑張って来たなぁ」

「ははは、そうだな」

「ねぇ、お父さん?」

「どうした?」

「私は今日で十六歳になります」


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