「こっちよ。」
俺は今、ミンスに連れられてオアシスの地下に広がる遺跡の中を歩いていた。
地上とは打って変わって空気がひんやりとしていて薄暗い洞窟の中を、彼女は迷うことなく進んでいく。
遺跡の中は、崩れかけていた。
柱はしっかりと残っているのだが、壁が崩れて通路を塞いでいたり、階段が一部崩れて通れなくなっていたり、長い間手入れされていないようだった。
しかし、古い造りの光源は生きていて、ぼんやりと遺跡内を照らしていた。
「何度もここを通ったのか?」
「ええ。この遺跡を通って逃げてきたの。あいつに見つからないように、こっそりここに忍び込んで、オアシスへの道を覚えたのよ。」
ミンスはするすると這いながら、少し誇らしげに言った。
一週間前、彼女は他の魔物娘たちと一緒に、夫を求めてこの先の砂漠の村を訪れた。
驚いたことに、反魔物体制の国に挟まれたこの砂漠は、昔は魔物と人々が仲睦まじく暮らす大きなオアシスだったらしい。
そんな記録を頼りにこの村を訪れた彼女たちだったが、それはやはり昔の話で、村人たちは大騒ぎで逃げ出してしまった。
落胆する彼女たちに、更なる不幸が襲いかかった。
彼女たちの来訪と同時に村を訪れた男が、村を占領しようとテロを起こしたのだ。
男は見たこともない魔道具を使い、人々はもちろん、魔物娘たちまで捕らえてしまった。
「その魔道具が、これよ。」
ミンスは忌々しいものを見るように、左腕の腕輪を見つめた。
ミンスの説明によると、男は腕輪によく似た装飾の銀色の杯を持っていて、その中から垂れる液体を対象の体に浴びせて、この腕輪のような枷を嵌めるらしい。
枷を嵌められた者は、少しずつ体力や魔力を吸われ、その魔力や体力が杯に溜まっていくそうだ。
「なるほど。で、逃げ出した先で魔力切れになって、気を失ったのか。
それで、その杯が一杯になると、どうなるんだ?」
「わからないわ。でも、興奮した男が言ってた。この杯で、東の国の城を吹き飛ばすって。きっと、集めたエネルギーを爆弾にでも変えるつもりなんだわ。」
彼女は怯えた瞳でそう言った。
魔力を吸うと言う魔道具。このまま彼女たちの力が吸われ続ければ、爆弾うんぬんの前に、彼女たちが危ない。
「ありがとう……。」
考えていたことが顔に出ていたのか、唐突に彼女が礼を言ってきた。
「なんだ、いきなり。」
「出会ってまだ一時間も経ってない私を信じて、そんなに真剣に考えてくれてる。それだけでも、嬉しいの。」
彼女は目尻に涙を溜めながら言った。
「おいおい、まだ何もしてないうちに泣く奴があるか。」
俺は彼女をこれ以上泣かすまいと、少し茶化しながら言った。
「あなた、ほんとにいい人なのね。……惚れそうよ。」
今度はミンスが茶化し返してきた。
「な、何を言ってるんだ。」
「あら、冗談に聞こえたかしら?」
「なっ、え?」
頬を赤らめて心なしか情熱的な視線を向けてくるミンスに俺は焦ってしまい、言葉につまってしまった。
「アハハハ」
そんな俺を見て、どこか満足そうに彼女は笑った。しかし、すぐに俺は状況を思い出し、慌てて彼女の口を手で塞いだ。手でね。手だよ!
「きゃっ!?むぐっ!!」
「ダメだミンス。遺跡の中は音が響く。大きな声は出さない方がいい。」
俺は彼女に耳打ちした。彼女はビクンと肩を弾ませたあと、小さく何度も頷いた。
それを見て、俺はそっと手を離した。
「ぷはぁ……襲われるかと思ったわ。」
「は?!いや、そんなつもりは……うお!?」
悪戯っぽい笑みを浮かべるミンスから離れようとして壁に手をつくと、その壁の古びた土煉瓦がゴトっと奥へ引っ込み、俺は前のめりに倒れてしまった。ミンスごと。
「きゃぁ!(おんぷ)」
「むぐっ!?!」
前のめりに倒れた俺は、顔の両側から温かくて柔らかな二つの膨らみに包まれた。
「ちょ、ちょっと!?ひゃん!!息がくすぐった……」
「ぷはっ!?すまん!わざとじゃな……い……?」
慌てて上体を起こして弁明を図るが、彼女は黙って目をそらしていた。
「……いや、えっと、怒ってらっしゃる……?」
問いかけてみても彼女は答えず、斜め上に顔を向けていた。
俺もつられて同じ方を向くと、美しい光景が広がっていた。
「な、なんだ!?ここ……」
「私も知らないわ。初めて見る部屋よ。」
俺たちは目も合わせずに話していた。
さっき俺が手をついた壁は、狭い通路の壁に機能的に収納され、その壁があった場所の少し先には、緩やかに下る階段があった。
その階段の先には豪華な客船がまるごと収まりそうな巨大な部屋があり、円形に近いその部屋の中心には、これまた円形の枯れた噴水のようなものがあった。
手の届く範囲の壁は普通の石造りの壁なのだが、半球のように
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