pipipi….pipipi….pipipi
「…んんぅ…」
俺は目覚ましの音で目を覚ました。
目を開けると、朝日の差しこむ天井が暗闇に慣れた目に少し眩しい。
ついさっきまで見ていたのに思い出せない夢の内容を反芻しながら寝返りを打って視界に入ってくるのは、恐らく華憐がアイロンしてくれたのだろう皺のないYシャツと制服のズボン。その下には鞄が置かれている。
ふと、鞄の紐に結び付けられたミサンガが目にとまった。
ある日突然、吉野が俺に尋ねてきた。
『あ、あんたの好きな色を三色挙げなさい!』
最初に聞かれた時は何の話かと思ったが、それからしばらくたったある日、このミサンガを投げ渡される勢いで貰った。
『これ、あげる。部活で作って、友達にあげる分が余っちゃったから、あんたにもあげるんだから。別に深い意味はないからね。』
忙しなく頭の蛇を指に絡ませて、視線を泳がせながらそう言っていた姿は、今思い出しても苦笑いが出る。
確か伊織も俺と同じように、吉野からミサンガを貰っていたっけ。腕につけていたが、腕につけるには長すぎて、二周させるには短すぎると困っていたようだったが。それでも、親友からのプレゼントだからと大切にしていた。
そんなことを思い出して、昨日のことを思い出す。
「あぁ…」
俺は目をかばいながら蛍光灯の紐を引っ張る。
「…学校行きたくねぇな…」
普段よりも強く、そう思った。
一体どんな顔して吉野に会えばいいのか…。昨晩の思考がよみがえってくる。
今思えば、もっと他にやりようがあったんじゃないだろうか?
吉野を利用するようなことをしなくても、『俺には心に決めた人が居る』とでも言えば、あの場は何とかやり過ごせたんじゃないだろうか?
なんだかんだで魔物娘の彼女たちも、悪い奴らじゃない。潔く身を引いてくれただろう。
それに、原因は分からないが、状況が状況なだけに吉野にはとんでもなく酷いことをしたことになる。
もし、異変が起こる前に、吉野に好きな相手が居たとしたら?俺はその想いを踏みつぶしてしまったようなものだ。そう考えると、俺のしたことは到底許されることではない。
俺は吉野のことはだいぶ知っているつもりだ。普段はツンケンした態度をとっているが、怠惰な部長を抱える部活にもきちんと参加している真面目な奴だ。
覗き見ようとしたら殴られたけれど、成績も俺よりいいし、小柄でかわいらしい姿も相まって、クラスではマスコット的な立ち位置を得ている。本人は小柄なのを気にしているようだけれど。
そんな真面目な奴が、俺のような中途半端な奴を気に入ってくれているのだろうか?そうは思えない。
きっと吉野も、他の魔物娘たちのように異変に呑みこまれてしまっただけなんじゃないだろうか?
「……最低だな…切腹ものだぜ…」
俺はしわくちゃのタオルケットをベッドの下の方に蹴りやって、重い腰を上げた。なんにせよ、まずは吉野に謝らないと。
そう心に決めて、俺は部屋を出た。
昨日と変わらず、絡みつくようなたくさんの魔物娘たちからの視線をかいくぐり、やっとこさ教室に入ると、吉野の後ろ姿が見えた。机に右肘を突いて顎を乗せている。しかし、髪の蛇たちは忙しなく舌を出し入れしたり、身をくねらせたりしているのを見るに、吉野自身はあの無表情の裏側で何か考え事をしているようだ。
非常に近づきたくないが、俺の席は吉野の右斜め後ろ。近づかないわけにはいかない。
「よ、よぉ、おはよう。吉野…」
俺は恐る恐る挨拶をしてみた。
「…お、おはよう…」
吉野は、ほんの少しだけこちらを振り向いて挨拶を返してきた。ちらっと見えた頬が赤かったのは、きっと見間違いじゃない。
「え、えっと、あのな?吉野…」
俺はどう切り出すべきか迷いながら言葉をつないだ。だが、そんな俺の言葉を、吉野は行動をもって遮った。
「こ、これ!あんたにあげる…」
静かに、しかしすばやく椅子から立ち上がった吉野は、俺の胸元にこの前と同じ薄い青色の包みを押しつけてきた。その顔は俯いていて表情は見えないが、押しつけられた弁当越しに体の震えが微かに伝わってきた。
「あ、ありがとう…その、悪いな。作ってもらっちゃって…大変じゃないか?」
俺はその包みをそっと受け取りながら吉野に尋ねた。すると、吉野は目を反らしながら答えた。
「別に大変じゃないわよ。普段は自分の分、作ってるんだから。」
「でも、こんだけの量を、ただでさえ忙しい朝の内に作るのは結構手間だろ?」
「い、いいからさっさと受け取りなさいよ。それとも、要らないの?ならいいわ。」
むすっとした顔で弁当を仕舞おうとする吉野を慌てて止めた。
「あ、いやっ、要る要る!要ります!」
「クスッ…コホン。最初からそうやってありがたく受け取っておけばい
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