土曜日の授業ほど、やる気のおきないものは無い。
俺は机に肘を突きながら、初夏の日差しの映える校庭を見下ろしていた。
体操着を着た生徒たちが、白球をあちこちで追い掛け回している。
それを見ている教員も、もう暑いくらいの時期だろうに、上下でジャージを着ている。
優雅な雲が風に流れ、遠くの音楽室からは楽器を演奏する音が聞こえる。
何の楽器かは知らないが、聞いているとどうしても、眠く…
「こらぁ!桐原!さっさと19ページの7行目から読まんか!!」
「わっ!?え、あ、はい!」
とても平和で、とても普通な日常だ。
「や〜い♪先生に怒られてやんの〜♪」
授業終了までずっと問いに指名され続けた俺の背中に軽く平手を打ち込みながら現われたこいつは、同じクラスの桜井伊織(さくらいいおり)。
衣替えしたばかりの夏服を少し着崩し、自称チャームポイントである長くてしなやかな灰色の尻尾を揺らしている。
手足も濃灰の毛を生やし、鋭くて黒光りする爪が生えている。そう。彼女はワ―ウルフだ。
「うっせ!ほっとけ!」
「あ〜ひど〜い!せっかくお昼誘おうと思ったのに…」
腕を組む仕草をしながら、ムッとした表情を浮かべる伊織。それでも、背後の尻尾はちゃっかり揺れているあたりが憎めない。
「まぁ、そう冷たい事言わずに、一緒に食べよ?」
そう言うが早いか、俺の机に隣の机をくっつけ、弁当の包みを置く。
「お、おい、まだ一緒に食べるって言ってないぞ!俺はこれから学食に・・・」
「お〜い!彩!ほら早く来なって!」
俺の言葉を完全に無視して大きな声で呼ぶ先には、不機嫌そうに眉をしかめながらこちらへと這って来る小柄な影。
そいつは俺と目が合うとさらに不機嫌そうな顔をして眼をそらした。
彼女は吉野彩(よしのさや)。濃灰の鱗に覆われた下半身はしなやかで艶があり、何かにつけては弄る癖のある長い髪は二つに束ねられ、先っぽでは蛇たちがあっちへこっちへとうごめいている。彼女はメドゥーサだ。
「あ、あら?桐原も一緒なのね。」
俺たちの傍へ這って来ると、吉野は綺麗な緑色の眼を泳がせながらそんなことを言った。
心なしか顔が赤い気がするが、突っ込まないでおこう。
「なんだ?不満か?ならいいよ。俺は一人で食うから・・・」
俺がそう言うと、伊織が慌てて何かを言おうとしたが、その前に吉野が遮った。
「ち、違っ・・・そんなこと言ってないでしょ?いいからあんたはそこに座りなさい!」
「お、おう・・・」
俺は促されるままに席に座った。横では伊織が何かを期待するような視線を吉野へと注いでいる。
「い、伊織も早く座る!時間がもったいないわ。」
そう言って俺と伊織の二人を座らせた吉野は、俺たちの囲う机の真ん中に弁当を二つ置いた。
その横で、伊織はさっさと自分の弁当の包みをほどいている。
「な、なぁ、もしかしてこれ・・・」
俺は恐る恐る目の前の弁当の片方、薄い水色の包みを指差した(もう片方は薄い紅色)。だが、俺が言いきる前に吉野はその包みを掴んで俺から遠ざけた。
「ば、馬っ鹿じゃないの!誰があんたなんかにお弁当を用意するもんですか!あんたはそこでみじめに私たちがお昼を食べる様を見ていればいいのよ!一口だってあげないんだから!」
「い、いや、まだ何も言ってな・・・」
「で、でも、桐原が、どうしてもって言うなら・・・?恵んであげなくもないわよ?」
顔を赤くしながらそんなことを言う吉野。その横で、呆れたような笑みを浮かべる伊織。
「い、いや、いいよ・・・俺、学食で・・・」
「遠慮せずに貰っちゃえば?女の子の手作り弁当なんてそうそう貰えないよ?」
箸箱から箸を取り出しながら、伊織が口をはさむ。
「ちょ、ちょっと伊織!私は別に桐原の為に作ったわけじゃ・・・」
「え?違うのか?」
「あ、当り前でしょ!!ちょ、ちょっと作り過ぎたから、誰かにあげようと思って持ってきただけよ・・・」
すかさず否定してそっぽを向きながらもごもごと言葉を紡ぐ吉野。
「だからお箸も付けてないんだよね〜♪」
その横から、伊織が楽しそうに言った。確かに、包みには箸箱特有の膨らみが無い。
「なんなら私のお箸使う?私が食べ終わった後だけど♪」
悪戯っぽい笑みの中に若干頬を赤らめながら、伊織が俺の顔の前で自分の箸をカチカチと鳴らす。よくあの手で器用に箸を使えるもんだ。
「お、おい行儀悪い・・・」
「そんなのダメ!」
俺の言葉をさえぎるように、突然吉野が大きな声を出した。
教室内でくつろいでいた数人が何事かとこちらを見るが、すぐに興味無さそうに各々の昼食や会話に戻って行った。
「ん〜♪何でダメなのかなぁ〜?」
そんな吉野に、伊織はにやにやと問いかけた。尻尾がシュルシュルと揺れている。対
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