むかしむかし、あるところ『ひとつの神様』ありにけり。
曰く『人以外の全ての獣は全て人の家畜なり』と仰せにけり。
すなわちその身にけもののしるしを持つもの全て家畜なり。
鳥の羽、牛の角、蛇の鱗、すなわち化生の娘は家畜であり悪魔なり。
それを害する事は功徳なることである。
化生の娘ら大いに嘆く。
傷つけ食らう邪悪な振る舞いなどはなく、彼女ら全て一人の男(お)の子を愛することのみ望み。
愛するものと引き裂かれ、時には死別も強いられる、苦難の時代であったとな。
夢の死んだその時代、はるけき東の噂話。
そこは暑くて寒くて葉っぱが赤くて桃色可憐な花が咲く、華やぐ水の国なりと。
『ひとつの神様』司祭様、東の海のはるけき彼方、華やぐ水の国に行く。
東の国の民草は、ようこそおいでくださいました、食事を与えて家築き、雛鳥見やる親鳥のように甲斐甲斐しく振舞った。
『この地にひとつの神様の、おわす神殿作りたし』
東の国の王子様、それに頷き神殿作る。
ところがどっこい『ひとつの神様』司祭様、当ては大変大はずれ。
東の国に、神様おわす。その数なんと八百万(やおよろず)。
『ひとつの神様』司祭は怒る。
『この世におわすかみさまは、ひとつの神様ただ一つ。他の神のやしろを壊し、わが神殿の柱とせよ』と。
東の国の王子様、それにはっきりお断り。
怒り狂った司祭様、王子様をお縄にかけて『王子の命惜しければ、今すぐやしろを灰にせよ』
やさしい国の民草達、きっと自ら槌を取り、やしろを壊すに違いない。
しかし王子はお縄を抜けて、孤剣一つで獅子奮迅。
優しいだけであるものか、孤軍奮闘勇者の如し。
怒り狂った司祭どの、命一つで逃げ帰り、無様きわまる生き恥よ。
今宵も酒場でけしからぬぞと、ぐだぐだぐだぐだくだを巻く。
東の国の民草達は、やさしいやさしい人ばかり。
会ってみたいな王子様。
行こうか行こうか東の国へ。
『ひとつの神様』いるところ、我らに寝床はありやせぬ。
震えて怯えて生きるより。
東の国へ、行きたいな。
東の国で、逝きたいな。
東の国のその噂、飛ぶ鳥めいて伝わって。
集まったのは化生の娘ら、その愛する男(お)の子含め、十が百へと百が千へと。
船を用立て東の海へ。
愛する人とその国で、怯えず震えず暮らしたい。
愛する人をその国で見つけ、怯えず震えず暮らしたい。
東の国の王子様、『ひとつの神様』仕返し恐れ、今日も海原睨みつけ。
ある日見えたよやってきた。
風雷凌いで海を越え、西の船がやってきた。
よろしいならば戦争だ。
いよいよ仕返しに来たか、王子の言葉に従って、誰もが弓もて戦支度。
戦のほら貝鳴り響き、東の国のますらお達は、待っていたぞと微笑んだ。
されどもその船何もせず、何かがこちらへ飛び立った。
鳥妖の娘空を飛ぶ。鍵爪の先に白旗掲げ、痩せ細った羽広げ、こっちへ来るぞふらふらと。
ますらお大いにいぶかしむ。
あれは何ぞや娘か鳥か。化生の娘を始めて見、誰も彼もがいぶかしむ。
東の国の王子様、まず危険には俺が行く。一歩進んで前に行く。
西の彼方の鳥妖は、恥ずかしくてたまりゃせぬ。
つややかあざやかきらびやか、極彩色のその羽は、いまやくすんで見る影もなし。
あばらの浮いたその体、苦難の渡航を物語る。
凛々しく綺麗な王子を前に、しばし我が身を省みる。
みすぼらしや、我が姿。みすぼらしや、我が翼。ああ、恥ずかしや、今すぐいずこへ飛び去りたい。
苦難の旅路で喉は枯れ、美しかったその声も、今や醜くひび割れて。
されど喉が枯れようと、ひび割れた声で訴える。
「東の国の王子様、西の娘にございます。
石もて追われ、家を焼かれる暮らしに耐えかね、縋る思いで流れてきました。
どうかお救いくださいまし」
それは東の国の異国の言葉。
鳥妖の娘使者として、よく物事忘れがち、足りない頭一杯に、山ほど言葉を詰め込んで、一言たりとも間違えず。
見目妖しき娘であった。鳥の翼に鍵爪は、間違うことなき異形なり。
されども王子は鳥妖の、娘のその眼の意味を知る。
嗚呼むかし見たことがある。
父(てて)なし母(かか)なしおうちなし。いくさで全て失った、みなしごの瞳なり。
さてさて、あやしき。
されど、不憫。
王子は我が手が汚れることも厭わずに、垢塗れの娘に対し、いとおしげに掻き抱く。
「よう此処まで飛んでまいった、後は全て任せたまえよ」
王子は一声答えると、自ら小船で乗り出した。
化生の娘ら震えながら、望みをかけて訴えた。
ここが東の国なるか。
我らの約束の地なのか。
王子胸張り答えて曰(いわ)く。
「ここがうぬ
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