俺は手に持った教鞭の感触を確かめるように強く握り締める。
初めての実戦に対する不安は確かにある………
しかし、やると決めたからには負けるつもりはない。
「───────────────それでは、始めるとしましょうか」
俺は眼前の敵に向け、己の意志を乗せた言葉を吐き出す。
すると俺の意志に呼応するかのように遺跡内部を一陣の風が吹き抜け、俺と相対する犬耳の艶やかな黒髪が静かに揺れた。
「風………先程も拝見しましたが、それが貴方の魔術ですか。
しかも無詠唱で風を巻き起こすとは………これは、手加減は不要なようですね」
犬耳がそう言って杖を掲げると犬耳を中心に輝く砂が舞い、風に乗って宙を漂う。
砂………この砂、何処から紛れ込んだんだ? もしかすると、これが犬耳の能力か?
いや、そんなことはどうでもいい。 とにかく、手を出さない事には始まらない。
「先手必勝!疾ッ───────────────!!」
俺の掛け声と共に振るわれた教鞭が風を絡め取り、弾丸を形成する。
そして振り下ろされた教鞭は、砂塵を切り裂きながら風弾を射出した。
しかし───────────────
「無駄ですよ」
犬耳がそう言うと、宙を舞う砂塵が犬耳の周囲を取り囲むように集まっていく。
そして空中を疾走する弾丸の先へと回り込むように集束し───────────────
「砂よ!守りなさい!!」
────────────その姿を円盤状の盾へと変化させた。
行く手を阻まれた弾丸はそのまま盾へとぶつかり、砂を巻き上げながら盾と共に消滅した。
「防がれたっ!?」
「当たり前でしょう、わざわざ敵の攻撃を喰らう馬鹿がどこにいますか」
いや、まあ、それもそうか………
ゲームだったらコマンド入力すればいいだけなんだけど、ここはゲームとは違いますからね。
むぅ………当てる為には考えてやらないとダメか。
適当に攻撃しても躱されるか、防がれるかされるな。 あー、どうするかなぁ………
俺は初めての実戦に頭を掻き毟りながら思考を巡らせる。
「戦いの中で考え事ですか?随分と余裕ですね。 それでは今度はこちらからいきますよ」
犬耳はそう宣言すると、杖を掲げて呪文を唱える。
するとその声に呼応するように、砂が犬耳の頭上へと集束していく。
やがて………集束された砂の塊は、巨大な槍へとその姿を変貌させた。
顕現した巨大な槍は、元が砂とは思えないほど鋭利な煌きを湛えている。
「え?──────────えええええええええええええええええええええええええッッッ!!!
ちょ、ちょっと待ってください。 ………えと、それをどうするつもりなのでしょうか?」
「………わかりませんか?」
うん、わかりません。 ………むしろ理解したくないです、ハイ。
ほら、お願いだからその物騒なモノを早く仕舞ってくれないかな?
「それならば、その身を以て知りなさい。 行きなさい!『砂の巨槍』」
「やっぱりかああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
畜生ッ、予想通りだよ!!!
犬耳が掲げた杖を振り下ろすと同時に砂の槍は俺へと向けて射出された。
普通、人間がそんなの喰らったら死ぬからね。 ………と、いうわけで。
「そんなの喰らってたまるかああああああああああああああああああああああッッッ!!!」
俺は迫り来る砂の槍を、全力で横へと跳んで回避する事にした。
だが───────────────
「甘い。その程度のこと、私が予測していないとでも思っていたのですか!!」
犬耳はそう言いながら、杖を振るう。
すると飛翔する槍はその軌道を強引に捻じ曲げ、俺の跳んだ方へと向きを変える。
「ちょ!そんなのありですか!?──────────って、こっち来たああああああああ!!!」
撃ち落とすかッ!
いや、成功する保証はない。 失敗したらまともに喰らうことになる。
───────────────それならッ!!
「でええええええええええいッ!!!疾ィィィッ───────────────!!!」
俺は咄嗟に教鞭を振るい、俺自身へと向けて風を巻き起こす。
突如として吹き荒れた風は槍の前に晒された俺の身をその場から浚い、予想された着地地点よりも離れた場所で俺は着地した。
ドッガァァァァァン!!!
「………あ、危なかったぁ」
「また油断ですか? 攻撃を躱したといっても、気を緩めるものではありませんよ」
「え?───────────────ぐああっ!!!」
不意に犬耳の声が聞こえ、同時に後頭部に鈍い衝撃が走った。
衝撃の走った後頭部を確かめるように触れると、ぱらりと砂が零れおちた。
「『砂の飛礫』………
詠唱無しではこの程度の術しか使えませんが、貴方のような素人にはこれで十分です」
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