草木の影に身を隠し、呼吸を殺し気配を消す。
俺は二人の標的に狙いを定め、慎重に追跡する。
獲物は二匹、風に揺れる艶やかな黒髪が今は遠き故郷を思い起こさせる。
……いや、迷いは捨てる。 俺の心は揺るがない。
あれは獲物、兎を狩るのに躊躇いは不要だ。
さあ、それでは狩りを始めようか――――――――
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私こと天夜かぐやが町を出発して数日が経ちました。
私達は現在、目的地へと向けて森の中を進行中です。
不慣れな旅はとにかく苦労の連続ばかりです。 え?一番苦労したのは何かですって?
……………き、聞かないでください、お願いします、後生ですから//////
……えと、では気を取り直しまして。
そうですねー、何に苦労するかと聞かれると野宿にはまだ慣れませんね。
初日の朝なんて、起きたら目の前に数匹の狼が鎮座してて吃驚しましたよ。
話を聞くと夜中に気配を感じたアリーチェさんが退治したとのことらしい。 ……野宿、怖いです。
因みに、その日の朝は物のついでにと狼の解体の仕方を教わりました。
毛皮の剥ぎ方、食肉の獲り方、不要物の処理の仕方ですね。
……あの時、私は理解しました。
餞別の中にあったナイフは装備用ではなくサバイバル用の物だったのだと………
……考えてみれば長旅で携帯食が常に確保できるなんてあり得ませんしね。
なんだか、こちらに来てから随分と精神的に逞しくなった気がします。 ……全然嬉しくない。
まぁ、いろいろとありましたが……
とりあえず、今日もかぐやは元気です。
「ん……これは………」
不意に、アリーチェさんが立ち止まる。
耳を澄ませる様な仕草を不思議に思い、私は彼女に問いかける。
「……どうしたの、アリーチェさん?」
「いえ、水の流れる音がしまして…… どうやら近場に川があるようですな」
「え!? それホント!!!」
私は思わぬ幸運に歓喜の声を上げる。
旅の間は自由に水を使えない、必然的に体の汚れは十分に落とせない。
年頃の女の子にとって、コレは死活問題だ。
もし、この不満を解消する術があるというのなら気分が高まるのも当然でしょ。
「ねぇ、川はどこ?早くいこーよ! 私、待ちきれないよ!」
「まぁ、そう慌てずに…… あまり急ぐと危ないですよ」
……やがて、私達は川辺へと辿り着いた。
おー、水が綺麗だ、全然汚れてない。
これも、文明が発展してないおかげなのかな?
私は手で水を汲み取り、口元へと運ぶ。
「んく……んく………ぷはー。 おいしー、生き返るわー」
なんてゆーか、自然の味みたいな?
気分の影響もあるんだろうけどさ、水道水なんかよりおいしー気がする。
さて、喉も潤ったところでさっそく水浴びを―――――
「―――って、あれ? アリーチェさんどこに行くの?」
衣服を脱ぎ水浴びの準備をする私を余所に、この場を立ち去ろうとするアリーチェさんが見えた。
「二人同時に水浴びをする必要はないでしょう?私は周囲を警戒してますのでお気になさらず」
「警戒って……なにか気になることでもあるの?」
「……獣が一匹、後を付けて来てるようでしてな、私が追い払ってきます」
「んー、私も行こうか?」
「いえ、一人で十分です。 ……一応、警戒だけはしておいてください」
「ん、了解。 アリーチェさんも気をつけてね」
私は森の中へと消えたアリーチェさんを見送った。
まぁ、アリーチェさんは私よりも旅に慣れてるみたいだし、問題はないだろう。
……あれ? ということは今一番危険なのは、一人取り残された私?
け、警戒だけは怠らないようにしよう! うん!
アリーチェさーん、はやく帰って来てねーーー!!!
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かぐや殿を一人川辺に残し、私は来た道を遡るように戻り歩く。
吹き抜ける風が草木を揺らし、緑の香りが鼻腔を擽った。
「さて、狼さんはどちらでしょうか?」
感覚を研ぎ澄ませて気配を探る――――――――
―――いる。 ………木の上ですか。
先程覚えた違和感が、確かにそこに存在する。
それでは、出て来ていただきましょうか。
『暗黒言語《シャドウスペル》』
能力を解放し、闇を司る存在と感覚を結びつける。
その後、私は両の袖口に手を差し込み袖の中の"影"を掬い取る。
そして指に絡まる無形の影が私の意志に呼応するように小刀の形を造り、
『飛影閃』
私はその小刀を投擲した!
木々の枝葉を切り裂きながら飛翔する鋭利な"影"が、私の感じた存在へ向かって突き進む。
「―――――チッ!」
すると、木の上から一人の男が飛び降りてきた。
………怪我はない、どうやら避けられたようですな。
「何故、俺の居場所が分かった。 気配は完璧に消したはずだ」
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