どうも、黒須 直哉です。
只今、卵黄と酢、食用油を攪拌している最中です。
え?何をしているのか?
マヨネーズ作りに決まっているじゃないですか。
召喚の儀から二週間………
バカ(王様)から餞別は一日で底をつき、俺はまず仕事を探しました。
え?旅ですか? ……いきなりそんなことするわけがないでしょう。
確かにここにいても帰還の手掛かりは見つかりそうにありません。
手掛かりを探す旅というのもいいと思います。
………ですが、まずはお金です。
ああ、そうそう、文字はまだですが数字は一応おぼえました。
お金の管理に必要ですしね。
例え世界が変わろうとも人の世で生きるにはお金が必要なのですよ。
まぁ、そんなわけで………
幸いにも酒場で従業員の募集をしていると聞けたので、俺はそこで雇ってもらうことにしました。
あ、因みに住み込みで食事つきです。
文無しの俺にとってこれ以上の条件はないと思います。
それで、その食事なんですが……
これがホントに味気なかった、たぶん食文化の違いのせいだろうなー。
いえ、文句が言える立場じゃないのはわかってるんですけどね。
そんなわけで、登場したのがマヨネーズ。
作り方は小学校の家庭科の授業で習いましたし、幸い材料もありました。
できれば醤油も欲しいけどさ、作り方知らんし。
そして完成したマヨネーズ、酒場のマスターに少し分けてあげたんですが………
「うまいっ」(テーレッテレー)
ということで酒場の目玉商品として提供することになりました。
……なんぞこれ?
あ、マヨネーズで得た収入の一部は俺の取り分として受け取ってます。
いやー、世の中どんな知識が役に立つかなんてわからんものだねー。
とりあえず日本に帰るまではマヨネーズ職人としてやってこう。
はっはっはっ、金儲けってたのしーな。
そんなわけで今日も一日、マヨネーズを攪拌しているというわけです。
それにしても二週間か………
この二週間の間に俺はこの世界のことを調べていた。
とりあえず、わかったことを整理してみようか。
まず一つ、
この国あるいはこの世界において教会、いや教団だったか?
神を信仰する団体が存在し、そいつがかなり強い権力を持っていることがわかった。
これは町の人たちと生活を共にしていればなんとなくわかる。
二つ、
この国は反魔物国家であり、国外には親魔物派と呼称される国も存在するということ。
これは町の外から来た商人に聞いた。 因みに情報の対価にはマヨネーズを要求されました。
教団の影響が強い地域では反魔物思想が根強いが、教団の影響が小さい地域は魔物と共存することも珍しくないそうな。
三つ、
この世界において魔術は珍しくないが、召喚術は一般的には使用されていないこと。
これは召喚術の知識を持つ人が二週間で見つからなかったことや、あのバカ(王様)が召喚術を王家に伝わる術だと言ってたことからの推測だ。
恐らくだが、一般的には召喚術や被召喚者を送還する術の研究はされていないのだろう。
もちろん例外が存在する可能性はあるが、今の俺に知るすべはない。
最後に、
魔術の使用は誰にでも可能であること。
とはいっても一般人では火種を起こしたり、小さな氷を作る程度らしいが。
『誰にでも』使えるということは、俺にも習得が可能かもしれないということだ。
そのうち試してみるのもいいかもしれない。
しかしだ、これからどうするかなぁ………
俺は完成したマヨネーズを瓶詰めにしながら考える。
市民にまぎれて生活するのもそろそろ限界だろう。
マスターに聞いたんだが、マヨネーズの注文は城からも来ているそうだ。
そうなると俺の存在も、あのバカ(王様)にいずればれるだろう。
できればそれは避けたい、あのバカ(王様)に関わると碌なことがない。
そうなるとだ、国外へ出ることを前提に計画を組む必要が出てくる。
うーーーん、どうするかなぁ………
「おーい、ナオヤ」
ん?ああ、マスターですか。
「いったい何のご用でしょうか?」
「お前に客人だ。 ちょっと来てくれないか」
「客? ……もしかして、王宮の関係者ですか?」
もしそうだとしたら、絶対に会いたくない。
断固拒否させていただきます。
「いや、小さなお嬢さんだ。 マヨネーズを作った奴に会いたいんだってさ」
……どうやら違うみたいだ。
まぁ、マヨネーズのレシピでも聞きたいのだろう。
「わかりました。 これが終わったらいきますよ」
「いや、後は瓶に詰めるだけだろう? 他の奴にでもやらせるよ」
「そうですか。 では、お願いします」
「客人は7番テーブルで待ってるからな。 間違えるなよ」
はいはい、7番テーブルですねー。
大丈夫、間違えたりなんてしませんよー。
………その時、俺は思ってもいなかった。
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