今は遠い記憶の彼方。
けれど、決して色褪せることのなかった少女の思い出。
澄み渡る青空の下で、優しい風に草原が揺れる。
一人の少年の旅立ちの日、まだ幼い少女が縋るように言葉を紡いでゆく。
『……にいさま、どうしてもいってしまうの?』
『寂しいかい?でも、もう決めたんだ。 ……このまま、見送ってくれるよな?』
『また…… また、会える?』
『あー、ちょっとわかんないな。 ほら、冒険に危険は付き物だしさ』
『………ふぇ、ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん』
『だぁああああああああああああ! 泣くな、悪かった! 会える!いつかきっと会えるから!』
『……………本当?』
『ああ、約束する。 ……でも、この村に帰るのがいつになるかまでは約束できないけどな』
『だったら……』
『ん?』
『だったら会いにいく! ぼーけんしゃになってにいさまをおいかけるの!』
『ははは、そうか…… そいつは名案だな。 じゃあ、楽しみに待っていようか』
『うん! 待っててね、にいさま!』
『おうッ、その時は一緒に冒険しようぜ』
『きっと…… きっとだよ、にいさま! いつかいっしょにぼーけんしようね! 約束よ!』
―――そう、私は約束した。
―――今よりも、ずっとずっと強くなって。
―――会いにいくから。 いつか、きっと…………………
あれから10年………
遠き日の約束を胸に秘め、ただひたすらに、来る日も、来る日も。
10年間、少女は肉体を鍛え、剣技を磨き続けた。
そして―――――――
とある街にあるギルドにて。
「……これで終わりですか?」
「んー、今から確認するのでちょっと待っててくださいねー」
………………………………
………………………………
………………………………
「……はい、終わりです。 こちらのメダルが認定証ですのでなくさないでください。
それでは新たな冒険者さん、旅に危険は付き物ですが、挫けずに頑張ってくださいねー」
冒険者組合所属
アミリア=ヴォラスト
種族:リザードマン
職業:剣士
"登録完了"
「ところで………」
「? はい、なんでしょうか?」
「10年前の写真で悪いんだけど、この男に心当たりはありませんか?」
その写真の裏にはこう書かれていた。
『いつかの再会を約束して』
『ケルヴ&アミリア』
……今は遠い記憶の彼方。
けれど、少女の中で決して朽ちることのなかった、たった一つの小さな約束。
「兄様…… 今、会いに行くからね」
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