写真をギルドの役員に見せた後、兄様の情報はわりと簡単に入手することができました。
正直に言うと10年前の写真が手掛かりになるのかは疑問だったんだけど。
だけど、兄様の名前を言うことで、情報はすぐに聞き出すことができました。
何でも冒険者達の間では結構な有名人で、最近では単独でドラゴンを退治したとか。
……流石です、兄様。
まぁ、そういうわけで現在兄様が冒険の拠点としている街に行くことに決めた私は、組合が運営している駅馬車を利用しようとしたのだが……
「馬車を出せないんですか?」
「へぇ、すいやせん」
事情を聴くと、何でも最近になってこの街の付近の街道に盗賊が出るようになったそうです。
本来ならすぐにでも退治したいのだけれど、生憎この街に集まる冒険者はほとんどがRankの低い新米で戦力としての期待はできない。
一応、近隣のギルドに討伐を要請してはいるのだが、馬車が出ていない以上、いつになれば他のギルドから応援が来るのかは判らない。
それで、仕方なく放置しているとのことだ。
……仕方ありませんね。
「盗賊を退治すれば馬車は出せるのね」
「そりゃまあ盗賊さえいなくなればすぐにでも運営を再開できやすが」
「だったら、私がその盗賊を退治してきます。 ……ついでに路銀も稼げますしね。
そういうわけで、盗賊の人相と出没地域を教えてくれませんか?」
「へ? そりゃあ有難いことですし構いやせんけど、お一人で大丈夫なんで?」
「勿論。 これでも剣の腕には結構な自信がありますから」
私は腰に下げた一対の剣と短剣を御者に見せると、盗賊についての情報を聞けるだけ聞き出した。
そして次の日。
私は盗賊を退治する為、聞き出した情報を頼りに森を拓いた街道をぶらついていた。
背中には大きめの荷物袋を背負っている。
因みに中身はすべてガラクタで、見た目ほどの重量はない。
手ぶらの冒険者を襲う盗賊はいないと思い、急遽用意したものだ。
死角の多い森、相手は一人、その背には大きな荷物。
これ以上ない好条件を演出したつもりだ。
さて、これに引っかかってくれればいいんだけど……
―――――その時だ。
風が不自然に変わるのを感じた私は咄嗟に剣を抜き放ち、背後から迫る殺気を切り払う。
高い音を立て弾け飛ぶ一本のナイフ。
私は背負った荷物を地面に捨てると、ナイフの飛んできた方へと抜いた剣を向けた。
「隠れてないで出て来なさい」
数秒の静寂の後。
木陰に隠れていた小さな気配が森を飲み込むかのように拡大していき―――――
「キキキキキキキキキキキキキキキキキキッ」
不愉快な笑い声を響かせながら、木陰から一人の男がゆらりとその姿を現した。
「あ〜あ、やだねぇ。 この辺りには俺様にかなうヤツなんていねぇと思ってたのによ〜」
「……あなたがこの辺りに住み着いたという盗賊ですか?」
「ああ、そうさ。 『瞬迅のマルク』とは俺様のことよ」
「そう…… ところで仲間を呼ばなくてもいいんですか?」
「あ? 仲間なんかいねぇよ。
糞の役にも立たねえのに分け前分け前なんて囀りやがる。 うざいったらありゃしねえ」
「……だったら」
私は右手に剣を、左手に短剣を持ち、目の前に立つ男に向けて構える。
「あなたを倒せばいいんですね」
「キキキ、できると思ってんのか―――――よッ!」
男は右手でナイフを取り出すと、大地を蹴り私に目掛けて疾走する。
瞬く間に距離が詰められ、ナイフが獲物の喉を掻き切る為に振るわれる。
私はそれを短剣で受け止めると、もう片方の剣を薙ぎ払うように横に振るった。
男は舌打ちをしながら後ろへと跳び、互いの間に距離が開いた。
「チッ、俺様の速さについてくるとはよォ」
「速さ?あの程度が? ナイフなんて軽い得物ならあのくらいできて当然でしょう?」
「あ゛? あんなの全然本気じゃねぇよ。 てめー、今すぐに殺してやるから覚悟しろよ」
男はそう言うともう一本ナイフを取り出し、それを両手で弄ぶ。
そして、次の瞬間―――
男の足元の土が爆ぜ、男の姿が消えた。
……まさか、逃げられた?
いや、違う。 男の気配が遠ざかる様子はない。
「いいのかい、余所見は禁物だぜィ」
「――――――ッ!」
ざくりと、不快な異物が背中へと打ちこまれる。
私は咄嗟に振り向くと、15メートル程離れた場所に男が立っているのが見えた。
恐らくあの位置からナイフを投擲したのでしょう。
「キキキキキ、見えたか?気付いたか? これが『瞬迅』様の実力よォ!」
「ッ…… それがどうしました。 この程度、怪我の内にもはいりませんよ」
「キキキ、わかってねぇなァ。
俺様はてめーに気付かれずに攻撃できる。
てめーは俺様に気付けず防御もまともにできねぇ。
そんで俺様がてめーに近づかなきゃ攻撃
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