『お前の望む宝物』 -中編-

冒険者にとって魔物が女性の姿をしている事は当たり前の常識だ。
事実、俺は何度もそんな魔物達を撃退してきた。

しかし、何事にも例外はある。

魔王の力量の不足か、もしくはその個体と魔王との相性が悪いのか。
原因は不明だが、この大陸では稀に魔王の影響を受けていない旧種と呼ばれる魔物が目撃される事がある。
そして、今回俺が挑んだこの竜の巣。 ここもそうした噂の一つの発生地だった。

『そこには旧種のドラゴンが住みつき、その強大な力に見合った財宝を貯えている』

俺は街の酒場でその情報を聞き、この場へとやってきた。
しかし、現実は違った。 俺が死力を尽くして挑んだ竜は旧種と呼ばれる存在ではなかった。





「喜べ、ニンゲン。 お前の想いは理解しました。 わたしはお前にもらわれてやります」

それはあまりにも唐突な出来事だった。
先程、確かに退治したはずの竜が少女に化けて俺の目の前に立っている。
そして…………

「今からわたしは、お前の嫁です」

指を突き付け高らかに、彼女はそう宣言した。



……………って



「ちょっと待てぇええええええええええええええええええええええええええええええい!!!」

叫んだ。 それはもう盛大に。

ただし、先程の様に喜びによって出たものではない。
不意の出来事に驚き、その現実を否定する為に体が発した反射的行為。 いわゆるツッコミ。

「? どうしたです、お前?」

そんな俺に対して、彼女は愛らしい仕草で小首を傾げて応える。
その容姿は間違いなく美少女に分類されるものであろう。

しかし。 しかしだ!
俺は荒れた呼吸を整えて、目の前の少女に問い掛ける。

「お前! さっきのドラゴンか!?」
「ハイ、そうです。 さっきのドラゴンです」

肯定。 それもあっさりと。
それでも現実を受け止められない俺はさらに少女に言葉をぶつける。

「ここには! 旧種のドラゴンがいるはずなんだよッ!」

そう、その筈だ。 その噂を信じて俺はここに来た。
そして、先程まで対峙していた竜は間違いなくヒト型ではなかった為、俺は旧種の竜だと思っていた。

「なッ! お前、失礼です。 わたしが年寄りに見えるとでも言うですか!」
「だったら何でさっきまで竜の姿だったんだ! 紛らわしいんだよ、誰だって勘違いするわッ!」
「別にいいじゃないですか!
 軽い気持ちで入ってきた侵入者を追い払うならあの姿の方が効率がいいんです!」
「いや、普通逆だろ! ドラゴンの癖に効率なんて求めるんじゃねぇよ!
 普通はヒト型で追い詰められてから竜に変身するもんだろ!」
「普通って何ですか! 侵入者を追い払うのに何でそんな回りくどい事をするのですか!」

口論、口喧嘩。
それからはもうグダグダだった。



――そして、数十分後。



床に倒れ伏す俺を見降ろす竜娘。 そして、動けない俺。
先程とは真逆の光景。

「お前、情けないですね」
「……うるさい、黙れ」

激しい口論の末、体力を使い果たした俺はぶっ倒れた。 理由は単純だ。
元々、体力は先程の激戦で殆ど使い果たしていた。 要するに、俺は殆ど瀕死だったのだ。
そして、遂にその限界が来た。 ……というわけだ。

竜はあきれたといった様子で俺を見降ろしている。
まぁ、先程まで戦っていた相手が唯の口喧嘩で倒れたのだからそれも当然だろう。

あぁ… 俺、このまま死ぬのかな……
しかし、そうはならなかった。

「仕方ないですね…… ほら、お前、これを飲むといいです」

竜娘はそう言うと俺を抱き起こし、俺の口へ馴染みの瓶を突き付け、その中身を流し込んだ。
激戦の中で何度もお世話になった冒険者の心の友、回復薬だ。
飲み下す毎に次第に体力が回復し、傷が癒えていくのがわかる。
このまま死ぬと思っていた俺は、先程まで対峙していた竜にその命を救われた。

「……落ち着きましたか?」
「ああ、助かった。 つーか、お前、これをどこで手に入れたんだ?」
「前に来た侵入者の持っていたものです。 足りなければまだありますよ」
「いや、もう大丈夫だ」
「そうですか。 それはよかったです」

体力は完全に回復した、それに加えて魔力もだ。
どうやら先程の瓶の中身は一般には流通しない一級品だったようだ。

「それで、俺はこれからどうなるんだ? つーか、さっきの嫁宣言は何だったんだ?」

体力を取り戻し、冷静になった俺は先程の竜娘の宣言の意図を尋ねた。
彼女に敵意がないのは理解した。 だが、嫁宣言の意図がわからない。

「? 何を言ってるです? わたしの全てが欲しいとお前が言ったのではないですか」



……………言った?



……ああ、そういえば。
『俺の勝ちだ! お前の全ては俺様が戴いて行くぜェ』
戦いを終えて興奮も冷めやらぬ中
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