街外れの森の中に建っている一軒家。
そこには魔女とその弟子が暮らしている。
弟子といっても彼は魔術師ではない。
彼が魔女から教わっているのは主に薬学…サバトの秘薬に関することだ。
普段は魔女と生活を共にしつつ、薬の調合や研究、材料の調達などを手伝ったりしている。
…朝。
彼は目を覚ますと水で顔を洗い、寝惚けた頭を覚醒させる。
そして、いつもと同じように朝食の用意を始めた。
「これでよし♪」
僕はたった今作り終えた二人分の朝食をテーブルの上に並べる。
食事の用意などの家事や雑務は基本的に僕の担当だ。
後は師匠が来るのを待つだけ……なのだが、まだ起きてこないようだ。
…まぁ、師匠が朝に弱いというのは今までの生活の中で理解しているつもりなので、さして問題ではない。
「師匠〜ごはんですよ〜」
とりあえず廊下に……その奥にある師匠の部屋に向けて大きな声を上げる。
本来ならば部屋まで呼びに行き、直接起こした方が確実なのだろう。
だが、師匠は寝言で近くにいる人に変な呪いをかける癖がある。
…最初の頃はそれで大変な目にあったな。
まぁ、寝言でかけたいい加減なものだったこともあり効果は長続きしなかった。
しかし、流石にこれ以上呪いをかけられるのは嫌なので僕はこうして寝言が聞こえない場所から師匠を起こすことにしている。
「いただきま〜す」
廊下に意識を傾けていると、不意に後ろから声が聞こえた。
たぶん、転移魔法で移動してきたのだろう。
気がつくと赤いパジャマを着た師匠は席に着いて朝食を食べ始めていた。
「ウル君、おはよ〜」
「おはようございます師匠」
朝の挨拶をすませた僕は二つのティーカップをテーブルの上に置いて席に着く。
するとテーブルに置いてあったティーポットが宙に浮き、踊るように二つのカップに紅茶を注ぐ。
「ウル君も砂糖二杯でいいよね」
返事を言う前にスプーンが宙に浮き、僕のカップに砂糖を入れてかき混ぜる。
役目を終えたスプーンはカップのふちを叩き高い音を鳴らす。
師匠曰く、『おいしくなるおまじない』だそうだ。
(最近では自分ひとりで紅茶を飲むときにもついやってしまう。
それを見られたとき師匠は嬉しそうだったが、僕は恥ずかしかった)
僕は師匠に紅茶の礼を言い、朝食を食べ始めた。
「「ごちそうさまでした」」
食事をすませた僕達は後片づけを始める。
二人で片づけをしながらその日の予定を組み立てるのが僕らの習慣だ。
僕が低い流し台で食器を洗い、師匠が魔法で乾かしたそれを食器棚に戻す。
「〜♪〜♪」
「師匠、今日のご予定は?」
椅子に座り足をぷらぷらさせながら鼻歌をうたう師匠に尋ねる。
歌を途中で止めて師匠は答えてくれた。
「今日は黒ミサがあるから出かけるね、晩ご飯までには帰ってくるけどウル君はどうする?」
「僕は街まで薬を売りに行こうと思っています」
森の中で生活しているとはいえお金は必要なのだ。
僕らはサバトの秘薬を売り、収入を得ている。
「じゃあ一緒に行こうよ♪
支度をするから待っててね。ウル君、先に行ったらダメだよ」
師匠は最後の食器を棚にしまうと、椅子から飛び降りて自分の部屋へと戻って行った。
僕は自分の支度を終え、家の前で師匠を待っていた。
「おまたせウル君」
そう言って支度を終えた師匠が家の戸をあけて出てきた。
師匠は赤を基調とした衣装をまとい、右手には獣の髑髏を掲げた杖もっている。
そして頭上を飾る帽子には誇らしげに三つの星が刺繍されている。
師匠は僕の前に躍り出るとその場でくるりと回る。
「お似合いですよ師匠」
「ありがと♪」
出かける前のいつものやり取りの後に僕は手に持っていたランチボックスを一つ師匠に手渡す。
「師匠、今日のお弁当です」
「ありがと、ウル君♪今日のお弁当はな〜に」
「師匠の大好物ですよ」
「本当っ♪ 楽しみだな〜」
そう言うと師匠はランチボックスを頭上に掲げる、陽光にあてて中身を透かして見ようとしているらしい。
ちなみに的中率はほぼ半々。
つまりその行為自体には大して意味はなく、殆ど勘で予想しているのだろう。
答えを教えてもいいのだが、それはタブーだと以前教えられた。
事前に中身がわかると昼食の楽しみが一つ減るとのことだ。
『それなら透かして見るのもアウトでは?』
と以前聞いたのだが、
『箱を開けなければギリギリセーフなんだよ』
と答えてくれた。
「師匠、そろそろ行きますよ」
「あ、うん…ちょっと待ってて」
師匠はポシェットの中にランチボックスをしまった。
ポシェットの中には空間魔法が展開してあり小さな見た目に反してかなりの荷物を詰め込める。
しかも、出したいものは瞬時に出せるすぐれものだ。
「さ、ウル
[3]
次へ
[7]
TOP [9]
目次[0]
投票 [*]
感想[#]
メール登録