第1章 その3 『ティータイム』

サバトが経営する喫茶店にて…
黒衣の少女ルシエは自身が教団に追われていた事情やウルを騎士にした経緯などをバフォメットに説明した。



「…ということがありましたの」
「なるほど、そんなことがあったのか。 クックックッ… ウルよ、災難じゃったな」

ルシエさんが大体の事情を説明し終えると、リーア様はそう言って僕の肩をバンバンと叩いた。
彼女が言ったことの要点を纏めると、

1、ある品を盗み出す為に、単身教会に忍び込んだ。
2、油断して神官に見つかり、兵隊に追われることになった。
3、逃走中に追いつめられたのを偶然出会った男(つまり僕)を"騎士"にすることで乗り切った。

…ということらしい。

「…それって、もしかすると僕は逃亡を手引きした共犯者になったって事ですか?」
「そうですね、教団はそのように認識していると思いますわよ。
 まぁ、あれだけ教団の兵を斬り捨てたのですし、今さら気にすることじゃありませんわよ」

…確かにそうかもしれないが巻き込んだ本人に言われるのは何だか納得いかない。
せっかく日々を平穏無事に過ごしていたというのに……

「ウルよ、そう落ち込む出ない、いざとなったらワシが匿ってやろう。
 なに、教団などに手出しはさせんよ」
「…ありがとうございます」

リーア様はそう言って僕を慰めてくれた。
この人は普段はアレだけどこんな時には一番頼りになる人だ。

「まぁ、それはそれとして…
 お主、先程ある品を盗むと言っておったの。 一体何を盗むつもりじゃったのじゃ?」

リーア様は興味津々といった様子でテーブルに身を乗り出す。

「…まぁ、答えても構いませんけれど。
 それよりも、ウル… それ、食べないのなら戴けます?」

彼女はそう言って僕の目の前に置かれた苺のタルトを指差した。
彼女の分もあった筈だが…… そう思って彼女の前に置かれた皿を見る。
見事なまでに空だった。 …いつの間に食べたのだろうか?

「ええ、構いませんよ。 どうぞ」
「ありがとう、ウル♪」
「ええい、ケーキぐらい幾らでも食べれば良いわ! サッサと続きを話さんか!」
「……よろしいんですの」
「ああ、構わん」

気のせいだろうか、ルシエさんの目が輝いて見える。
いや、多分気のせいだろう。 そう思うことにする。
彼女は呼び鈴を鳴らし、ウェイトレスを呼ぶと注文を言い付ける。
そして、ウェイトレスが下がると僕らと向き合った。

「では、答えさせていただきますね。 …私、聖剣を盗みに来ましたの」
「何、聖剣を盗むじゃと?」
「ええ、ですが何処を探しても見当たらなくて…… 一応、宝物庫も覗いたのですけれど」

なるほど、彼女の目的は教会が所有する聖剣だったのか。
しかし……

「聖剣ってあれですよね、教団の騎士長がいつも持ち歩いている……」
「うむ、確かアレが聖剣の筈じゃ」
「…それは本当ですの?」

要するに彼女は見当違いな探し方をしていたというわけだ。

「まぁ、いいですわ。 剣の在りかさえ判れば、もう失敗なんて致しませんわ」
「…別にお主の失敗はどうでもいいのじゃが、あんな物を盗んでどうするつもりかの?
 アレはそう価値のある物ではないぞ」
「? どういうことですか、リーア様。 仮にも聖剣と呼ばれる物に価値がないだなんて」
「ん? ああ、ウルは知らんのか。
 教団の保有する聖剣の殆どはかつて魔物と人間との戦争のときに打ち捨てられた魔界製の武器を修理、加工したモノなのじゃよ。
 じゃから魔界を行き来する魔物にとっては特別に価値のあるものではないのじゃよ。
 魔界に行けば新品が買えるからの。
 無論、中には神の加護を受けた"本物"もあるじゃろうが、騎士長が持っておるアレは間違いなく魔界製じゃよ」

僕は教団の所有する聖剣の意外な出自に驚いた。
尤も、これは魔界出身の魔物にとっては常識らしく、魔界製かどうかは一目見れば判るらしい。

「それで、お主はあんな物が欲しいのか?」
「ええ、確かに武器としての価値は殆どありませんわ。
 …ですけど、ある実験のサンプルとして必要なんですの」
「実験? いったい何の実験じゃ?」
「…それはここではお答えできませんわ。一応、機密事項ですもの。
 流石に喫茶店の中では言えませんわ」
「むむ、そうか。
 …じゃったら、サバトに来んか? あそこなら人目を気にせずに話せるじゃろ」

リーア様の誘いにルシアさんは少し悩むような素振りを見せる。

「…仕方ありませんね。口外しないと約束してくださるのなら、お教えしても構いませんわ。」
「おお、そうか♪ ではさっそくサバトへ…」

行くとするかの、と続けられる筈だった言葉は一人のウェイトレスによって遮られた。

「あの、ご注文の品をお持ちしましたけど…」

そう言ってウェイトレスは特
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