第1章 その2 『御伽噺の姫と騎士』

一方、リブルジェス南地区。
商業区の路地裏から脱出した二人は、サバトが経営する喫茶店に来ていた。



「いらっしゃいませ、二名様ですか?」
「ええ、陽の当らない席へ案内してくださる?」
「かしこまりました、ではこちらへ」

店に入った僕達は、フリフリに飾られたエプロンドレスを身に纏った幼い少女に案内されて席に着いた。(尤も、外見からは年齢を判断はできないのだが…)
『さて、一段落着きましたし、お茶にでもしましょうか。 ウル、良い店を知りませんか?』
そう言われてこの店に案内したのだが、彼女には追われる立場にあるという自覚がないのだろうか?

「では、ご注文が決まりましたらそちらの呼び鈴を鳴らしてください」

ウェイトレスはそう言って僕達の前にメニュー表を置き、呼び鈴を指し示す。
そして、一礼をした後に自分の仕事に戻って行った。

「ええと… 姫、でいいですか? 聞きたいことがあるんですけど……」
「そういえば自己紹介がまだでしたね。
 私はヴァンパイアのルシエ、姫と呼ばれるのも悪い気はしませんが… 少々目立ちますね。
 今後はルシエとお呼びなさいな」

彼女はそう言うと、手元に置かれたメニュー表を開いた。
…どうやら彼女は本気でお茶を楽しむつもりの様だ。

「あの… ルシエさん、聞きたいことがたくさんあるんですけど…」
「ウル、ここはカフェですよ… あなたも何か注文しなさいな」

僕の言葉を遮ると彼女はメニューを閉じる、そして僕の目の前に置き呼び鈴を鳴らした。
店内に鈴音が鳴り響くと先程のウェイトレスがこちらに歩いてきた。

「注文はお決まりですか?」
「ええ、私は苺のタルトと紅茶を♪ …ウル、あなたはどうします?」
「…同じものを」

注文を促がされた為に僕は咄嗟にそう答えた。
正直、先程の凄まじい光景を思い出すとものを食べるという気分にはどうしてもなれないのだが…

「紅茶は先にお持ちしますか?」
「タルトと一緒にしてくださいな」
「かしこまりました、少々お待ちください」

注文を聞き届けたウェイトレスは内容を書き留めると再び仕事へと戻っていった。



「さて…紅茶が届くまでの間、すこしお話をしましょうか。ウル、何を聞きたいのか言ってみなさいな」

彼女はそう言って質問を促す、どうやら話をする気はあるようだ。
…聞きたいことは色々とあるが、まずはあの時体に起きた異変について聞くべきだろう。

「まずは僕に何をしたのか教えて欲しいんですけど」
「それならもう言ったでしょう。 あなたを私の"騎士"に選びましたの」
「その… 騎士って一体何ですか?」

少なくとも僕の知る騎士とは違うものなのだろう。
彼女の言う"騎士"という言葉からは何か特別なものを感じる。

「…ウル、あなたヴァンパイアのことをどの程度知っていますの?」

不意に彼女のほうから質問してきた。
僕は問いに答えるべく記憶の中からヴァンパイアに関する情報をかき集める。

「物凄く強い魔物で人の血を吸って精を得る…… 後は陽光が弱点ってくらいかな」

昔に読んだ魔物図鑑にはそのように書いてあった気がする。
尤も、この程度は誰でも知っていることだろう。

「では、ヴァンパイアが陽光で弱る理由をあなたは知っています?」
「ええと、確か… 魔力の制御ができなくなる、でしたっけ」

そのことが今の僕と何の関係があるのだろうか?
そのように疑問に思っていると彼女はそのまま説明を続けた。

「私たちヴァンパイアは強力な魔物であると同時に敵も多いんですの。
 中にはヴァンパイアを狩ることを専門とする"狩猟者"なんてのもいますわ」
「…ヴァンパイアも大変なんですね」

…もしかすると、先程の様に教団の兵士に追われることは日常茶飯事なのだろうか?

「まぁ、奴らからすれば陽の光にさらせば労せずに倒せる格好の獲物に見えるのでしょう。
 或いは、物語に出てくる英雄にでもなったつもりなのでしょうか?
 たしか、人の書いた小説には吸血鬼退治をテーマとして扱うものがありましたよね」
「…そうだね、有名なものはいくつか読んだことがあるよ」

そう言うと彼女はくすくすと笑う、何かおかしかったのだろうか。

「ウル…ヴァンパイアを倒すのはそう容易くはありませんのよ。 そのための"騎士"ですもの」

彼女はそう言うと、"騎士"について説明を始めた……



「それでは、説明いたしますわ。
 "騎士"とは陽光の影響で制御できなくなる魔力を制御するための術の一つですの。
 簡単に言うと自分では制御できない魔力を"騎士"を… 陽光の影響を受けない者を使うことで扱うんですの」
「じゃあ、僕の姫になるってどういうことですか? ルシエさんはヴァンパイアのお姫様なの?」
「違いますわよ、"姫"とは"騎士"と対にな
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