リブルジェス北地区にある教会、その聖堂には一人の天使がいた。
…彼女は酷く不機嫌だった。
「…私としたことが、賊の侵入を許すだなんて」
ああ、何という失態だろうか、これでは我が主に合わせる顔がない。
私はステンドグラスに描かれた主神の像に赦しを乞う様に跪き、祈りを捧げた。
…そうせずにはいられなかった。
だが、魔物が大胆にもたった一人で教会に侵入するだなんて、我々は予想だにしなかった。
…当然だ。
たった一人で敵陣に忍び込むだなんて無謀とすら言えない。 ……狂気の沙汰だ。
美術館などに泥棒が盗みに入るのとは訳が違う。 大勢の兵士達がここにはいるのだ。
祈りをささげている最中、不意に扉の開く音が聞こえた。 私は立ち上がり、扉の方へと振り返る。
すると、白銀の甲冑を身に纏った男が私の下へと駆け寄ってきた。
彼の名は"アラン"。
教会が誇る騎士団を束ねる騎士長で、普段は私の周辺警護をしている。
「天使様、たった今追撃隊が帰還いたしました」
「そうですか。 それで、賊はどうなりましたか? 報告しなさい」
「それが、その……」
彼は私の問いに言葉を詰まらせる。
…どうやら、あまり良い報告ではないようだ。
「かまいません、報告しなさい。」
「はい、それでは…… 侵入者はいまだ健在、追撃隊は撃退されました。
追撃隊は約半数が死亡、負傷者も多数出ております。
それと、賊は二人でした。後から合流した男がいます、追撃隊を退けたのはその男です」
「そうですか…… では、賊の何物かは判りましたか? その目的は?」
「賊が何物かは判りませんが、種族はおそらくヴァンパイアではないかと思われます」
「…ヴァンパイアですか?」
「はい、追撃隊を指揮していた者がそのようなことを言っておりました。
目的ですが、おそらく何かを探していたのではないでしょうか。
教会内の至る所に侵入者の痕跡があります。 それと、宝物庫の鍵が開けられていました」
「宝物庫? 何かが盗まれたのですか?」
「いえ、それが何も盗まれてはいませんでした。
おそらくですが、目的の物が見つからなかったのではないかと思われます」
だとすれば、賊の目的は私が管理する神器や禁書の類だろうか?
…いや、これ以上は考えても無駄か。 情報が少なすぎる。
考えるのをやめた私は、当面の指示を騎士長に与える。
「とりあえず、警備は今まで以上に厳重にします。 特に夜間の警備には力を入れるように。
兵達にはそのように伝えなさい。
それと、言うまでもありませんが信者達に不安を与えぬよう気を付けなさい」
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