朝の光が窓越しに入り込んでくる。その光を受けて郁太は目を開けた。上半身を布団の上で起こすと、両手を上に伸ばす。それから立ち上がると部屋の障子を開けて廊下に出る。見上げた空は、綺麗に晴れ渡り何処までも青く広がっている。
「うん、今日もいい天気だ」
(それに何か良いことが起きそうな気がする)
青い空を見上げながら、郁太はそんなことを思った。そうして寝間着から着物に着替えると両親の待つ居間へ向かう。廊下を歩きだして暫くすると郁太は立ち止まり辺りを見回す。何か視線を感じたのだが・・・
(気のせいかな?)
そう思うと郁太は首を傾げながら歩いっていった。
それから少しして庭木の中から何かが飛び出すと床下に潜り込んだ。
両親と朝飯をとり終えると何か手伝うことがあるか訊ねる郁太に父親は「いや、今日は特にないな」と笑いながら答える。
「それでは今日は休日にさせてもらいます」
「ああ、そうしなさい。いつも頑張っているのだから、ゆっくり休んで来るといい」
父親の言葉に郁太は頷くと立ち上がる。
そこへ母親が声を掛ける。
「今日はどちらへ出かけるのですか?」
「とりあえず、街中を歩くつもりです」
「そう、気を付けるのですよ」
その言葉に郁太は解りましたと頷くと居間を出ていった。
「郁太もだいぶ立派になってきたな」
差し出されたお茶を飲みながら話す父親に母親も頷く。
「本当ですね」
「あの時はどうなるかと思ったが」
「よく無事に帰ってきてくれまして」
(チャンスね)
店先から外へ出た郁太は、右に向かって歩き出した。通りをゆっくり歩きながら、店先に並べられている品を見て回る。気になるものがあれば手に取り店番に訊ねながら確認する。値切りをして感を養う。そんなことをしながら街中を歩くのが郁太の休みの過ごし方のひとつだ。
郁太が松屋の息子とはいえ相手も商人。さらに手加減しないでくれとの父親の言葉。そのため何度も惨敗をしてきた。他の店より倍の値段で買ったり、余分なものまで押し付けられたり、値切ったものが偽物だったり。そうして押入れの中に貯まっていった品々。郁太はその全てを捨てずに取っておいてある。商人修行の成果であり、自分への戒めのためだ。それに捨てるのも忍びない。そのかいもあり最近では、真面な成果も出せるようになったてきた。
この前張子の虎を十五文で買い父親に見せたところ、張り具合に色の付け方や大きさを子細に確認し、「まずまずだな」との言葉をもらった。その虎は今父親の部屋に飾られている。
(早く褒めてもらいたいものだな)
そう思いながら郁太は通りを歩いていく。
屋根の上を白い塊が歩いていった。
昼になり蕎麦を食べるために郁太は店に入ろうとした。その時、立ち止まった郁太は辺りを見回す。それから屋根を見ると店に入っていった。
(気づかれたかな)
店に入り少しすると、顔なじみの店主が「いらっしゃい」と声を掛けてくるがその顔には困惑の表情を浮かべている。
「どうしたんです、何かあったんですか?」
「うん、誰かが後を付けてるみたいなんだ」
「な、なんですって!もしかして、また」
「いや、大丈夫だよ」
蒼い顔をする店主に郁太は好物の月見蕎麦を注文しながら答える。
「僕の知り合いだから」
「知り合いですか?」
「うん。それでさ、少し頼みがあるんだけど」
「頼みですか?」
郁太の頼みごとに店主は、首を傾げながらも頷いた。
塀の下から覗き見ながら待っている。
(まだかな)
店を出た郁太は通りを東に歩いてゆく。途中、出会う人たちに笑顔で挨拶をしながら歩いてゆく。だんだん、人通りが少なくなり、樹が多くなり始める。そうしてさらに歩き続けると、ようやく目的地に辿り着く。郁太の目的の場所。神社の境内。郁太は境内の中心辺りに立つと辺りを見回す。周りに誰もいないことを確認すると、その場に立ち止り目を瞑る。
(よし)
郁太は待ち続けた。全身から力を抜き、意識を集中し・・・
「!!!」
何かが通り抜けた。風は吹いていない、けれど強烈な何かが。一瞬にして全身を突き抜ける何か。それを受けて郁太は
(くっ!)
両足を踏ん張り、倒れそうな体に力を込め。そうして郁太は立ち続けた。長いようでいて短い時間が過ぎ・・・
「ちゃんと立ってられたね」
聞こえてきた声に郁太は全身から力を抜きながら答える。
「約束したからね」
目を開いた先に一人の少女が立っていた。猫の耳を生やし、二本の尻尾を揺らしながら。
「この姿では、初めましてかな?」
ネコマタの少女、沙羅が微笑みながら挨拶した。
郁太は呆然として沙羅を見つめていた。ネコマタという妖怪である以上人に化けるのは知っていたが。
毛並と同じ白い浴衣に似た着物。すらりとした手足。日の光のあ
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