「1、2、3、4・・・・・・15!」と、声を張り上げて腹筋を終える。 「1、2、3、4・・・・・・15!」と、声を張り上げて腕立てを終える。
(よく、飽きもせず毎日同じ事を続けられるよね・・・・)
道場の片隅で丸くなって、目の前で繰り広げられている光景を見つめながら私は欠伸をする。白い毛皮を丸めているその姿は、座布団かクッションに見えると言われ何度か座布団にされそうになった。
(こんなに美しい私をあんなものと間違えるなんて・・・)
私はこの道場に住んでいるネコマタで沙羅(サラ)という。だが、このことは誰にも秘密にしている。道場主の主人に迷惑をかけたくないし、門下生たちに珍しがられたくないからだ。遠く異国では、魔物娘と呼ばれているそうだが妖怪と呼ばれる方がいいのは、慣れなんだろう。
(ま、誰にでもほいほい付いてゆく尻軽娘とは思われたくないからね。)
当人達が聞いたら憤慨もののことだが沙羅にはどうでもいいことなので、気にしない。そんなことを気にするより今晩の食事のほうが重要だ。
(魚を食べたいけど、今朝の様子から望み薄いよね。カリカリは、好きじゃないんだけどな。雀でも捕ってくるかな。)
そうやって丸まっていると「「「お世話になりました!!!」」」と声が上がる。どうやら終わりのようだなと、起きて体をぐーっと伸ばしていると、一つの足音が近づいてくる。
(また来たな、懲りないやつだな。いくらなんでもそんな忍び足はないだろ。何を考えてるんだか?)
素知らぬ顔をして、毛繕いをしていると相手はそのままゆっくり近づいてくる。どうやら気づかれてないと思っているらしい。
(3、2、1、今だ!!)
振り向きざま、シャーッ!と声を上げて威嚇すると、相手は驚いて尻餅をついてしまう。その光景は、いつ観ても面白いもので喉の奥で忍び笑いをしてしまう。
「くそー、また負けたー。今日こそ勝てると思ったのに。」
そんなことを言って悔しがっているのは一人の少年だ。ほんの数ヶ月前に入門してきた少年で郁太という名前だ。この少年は、町一番の商家の跡取りで、本来なら家で商いの修行なりどこぞの学問所で勉強なりしているはずだが、なぜかこの道場に入門してきた。「商人といえども自分の身ぐらい守れなければいけません。」とぬかして親を諭してきたという。町の人々は、「さすがは松屋の跡取りだ!」と褒めちぎっている。
(そんなたいした理由でもないくせにね。)
そう、郁太が入門してきた本当の理由を沙羅は知っているから。というより、沙羅自身が理由の一つだからだ。
ある日の夜、沙羅は仲間達と宴会をしていた。捕ってきた肴や、家から持ち出してきた酒を持ち寄り、空き家で盛大に騒ぎまくっていた。町から離れた場所にあるため、どんちゃん騒ぎをしても気づかれる心配もない。そんな場所だから、集まってくるのは沙羅たちだけではなかった。
「おい、人間がくるぞ。」
外から流れ込んでくる臭いに、仲間の一人が気が付く。すぐに酒樽や料理を片付け姿をかくすと、程なくして盗賊と判る一団がやってきた。盗賊たちは家の中に入り込んでくると、担いでいた箱を次々と降ろしてゆく。一人がひと箱づつでそれを次々と積み上げてゆく。
(あれ、人間が使っているお金を貯めておく箱だよね。)
(そうだよ。でもあいつ等のものじゃないね。)
(あいつ等、なにもんだ?)
(あたし、知っているよ。あいつ等は、盗賊といってお金や品物を他人から奪い取ってくる悪いヤツなんだよ。)
(てことは、あの箱はどっかから奪ってきたんだ。)
そんなことを沙羅たちが話している間にどんどんつまれてゆき、全部で二十箱になると、大きな袋が沙羅たちの隠れている前に置かれ戸が閉まる音が聞こえる。
(この袋、なんだろ?)
(すんすん、人間が入っているよ。子供の臭いだ。)
(あの盗賊たちの子供かな?)
(ちがうよ。この臭いは、松屋の子供で郁太ってやつの臭いだ。)
(ああ、沙羅が気にしているあの・・・・)
(ああ・・・・あの・・・・・)
(き、気になんかしてない!)
(しー、静かに!何か話してるよ?)
「お頭!!うまくいきましたね。」、「たんまり、儲かりましたね。」、「こんなに上手くいくとは、思いませんでしたね。」、「「「ガッハハハ!!!まったくだよー。」」」と、口々に言い合っている。そんなとき、盗賊の一人が立ち上がり、袋の口を開けて人質にしていた郁太を引きずり出す。ここに連れてこられる間も恐怖を味わっていたらしく、涙を零して震えていた。
「お頭、こいつどうします?」
「ああ、もうそいつの用はすんだからな。どうするかな?」
そんなことを言いながら考えるふりをする。郁太はといえば、さらに涙を零して顔を白くしている。
(あいつ等、遊んでいるね。)
(逃がすつもりないね。)
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