山肌を駆け登ってきた風がそのまま吹き抜けて行く。
強烈な風に対して、全員がしゃがみ込む。ゴウッと耳に響く音が通り抜けてゆくと、漸く立ち上がる。
「皆さん、大丈夫ですか?」
バフォメットの相手、兄様が後ろを振り向きながら確認する。
「大丈夫ですよ」「心配ないぜ」「平気だよ」とパーティーのメンバーから声が上がる。伏せていた兄様の下からバフォメットが這い出てくると、埃を叩き落しながら愚痴り始める。
「う〜〜、儂の服が汚れてしまったのじゃ!何でこんな目に合うんじゃ!忌々しい風め!」
差し出された手を掴んで立ち上がると片手を掲げて呪文を唱え始める。
「これで一気に山頂まで」
「はい、そこまで」
モフモフの毛に覆われた手を握り締めると、鼻先で人差し指を立てて注意する。
「ここに登る時の条件、忘れたのかい?」
「も、もちろん覚えているのじゃ」
「魔法は非常時以外、使わないんだよね」
「うむ、その通りじゃ」
「この山に登る時の決まりをサバトの長の君が破るなんて」
「そ、そんなことはせんぞ!これはその・・・そう、あれじゃ!これから登るための精神統一じゃ」
慌てて誤魔化しているバフォメットに兄様は微笑むと恐ろしいことを話す。
「そう良かった。もし魔法なんて使っていたら、嫌いになっちゃうとこだったよ」
「!!!!兄様〜〜〜ホントにほんとじゃ!そんな事、ちっとも思ってオランのにゃ!だ、だから」
「嫌いになるはずないだろ。さ、涙を拭いて」
ハンカチで涙を拭いているその光景にアンテがはーっと深いため息をつく。
「甘やかしすぎですね・・・・というより、何ですかアレは?」
「対バフォメット用の魔法封じだな」
「この腕輪で封印しているのでは?」
自分のしている腕輪を指さしてみせるアンテにオレは首を振る。
「バフォメットの魔力をこの腕輪で封印するとしたら、100個在っても全然足りないな。彼女たちの魔力は強力なの知っているだろ」
「ゴーレムの私とは段違いですね」
頷くアンテから視線を外して空を見つめる。
青空は澄み渡っており、雲一つ無い立派な快晴だ。
「これなら雨の心配は無いな」
それから一時間程登り続けると、休憩を摂る様に声が掛けられる。
「はいベルツ、紅茶とビスケットです」
ありがとうと答えて受け取ると、渡された紅茶を一口飲んで目の前を見上げる。
大小様々な石が斜面全体に敷き詰めたみたいに広がっている。所々に巨大な岩が姿を見せており、低木はおろか草すら生えてない荒涼とした風景を生み出している。
そしてその先には茶色の岩肌を晒した山が悠然と聳え立っている。
「これからあそこを登るのですね」
紅茶を飲むと、そういえばと休憩しているメンバーに
「皆さんは登山が趣味なのですか?」
アンテの質問にアマゾネスが笑い出す。
「アッハハ!!違うよ、アタシは試練だよ」
「試練ですか?」
隣の少年に見える夫の頭をグリグリと撫でながら頷く。
「アタシは部族の長の娘でね。跡を継ぐためにこの山に来たんだ」
「長に成る方法は他にも在るんですけど、これがいいって聞かなくて」
「お袋みたいにトカゲ一匹倒すだけじゃ、アタシのプライドが許さないんだよ」
「イタタッ、トカゲってあの方はドラゴンですよ!一対一の素手によるタイマン勝負で引き分けたって聞いてますけどって痛いですよ!」
細かいことは言うなと更に激しく撫でる。因みにそのドラゴンとアマゾネスは今では飲み友達で毎晩飲み比べをしているという。
「私たちは運試しをした結果よね」
「これからの旅は今までより厳しくなるはずです。それでこの山を登りきれたら、これから先何が起きても大丈夫だと思うんです」
ミミックと青年の向こうでハーピーとその相棒が頷く。
「オレたちも同じかな。今度オーディションに出場するんだ」
「このメンバーに選ばれるだけでも十分だけど、どうせなら登っちゃおうと思って来たんです」
「選ばれる?」
それぞれが語ってくれた理由の中で聞こえてきた言葉に疑問を感じる。
その疑問を聞き出そうとベルツに訊ねるより先に、兄様が説明を始める。
「この山は登れる時期が決まっているんです。これから私たちが登るルートに太陽が垂直に当たる90日間。その期間がこの山の登山期間です。その期間を過ぎると意味が無くなるのです」
こほんと咳払いをすると他のメンバーにも語り掛ける。
「この山の頂上には朝日が当たると同時に水が湧き出す岩があります。そして湧き出した水に真上に来た太陽が映ると砂金に変わるんです。この砂金には特殊な魔力が宿っています。これは中々手に入らない貴重なモノです。そのため【陽光の砂】と云われ、これを入れたペンダントを持つだけで様々な災いから身を守ってくれるといわれています」
「実際魔界化した土地から魔物化せず歩
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