どこにあるのか近くて遠いか、どこの世界かいつの時代か、とある世界のそんな片隅。
暑き陽の射す浜辺は、海を楽しむ人間たちとそんな人々と似ているけれどちょっと違う、美しき女性、魔物娘とが楽しく入り混じった、のどかな様相を呈していた。
そんな浜辺の奥、喧噪もほとんど届かないような場所で、
意味わからんくらい筋骨隆々な二人の男が亀を揺らしていた。
「セイ!」
「ソイ!」
「セイ!」
「ソイ!」
「セェイ!」
「ソォイ!」
「セイヤッサ!」
「ソイヤッサ!」
「どっこいしょお!」
「まだまだ行くぞ!」
「筋肉信じて!」
「筋肉高めて!」
「筋肉魅せては!」
「筋肉たかぶる!」
「ふぁ…ふゃわわわ…」
そんな二人に揺らされる亀、もとい海和尚はなすがまま、というわけでもなくあたふたしながらも勢いに合わせ左右に身を傾けている。
「かなり来たなぁ!」
「もう少しだぞぉ!」
「次で決めるぞ!」
「今だ!体重をあちらへ傾けるがよい!」
「は、はいぃ!」
「「ドッセイソイ!!」」
勢いよく半回転する海和尚の体。
しかし砂浜に叩きつけられないよう、片側の男は甲羅の淵を支え、そっと下ろす。
そんなわけで、砂浜に取られた足がもつれて仰向けに転んでしまった海和尚は助け起こされ、これにてようやく、砂浜の果てで起きた小さな騒動は解決と相成った。
ここで筋肉の塊のような連中に目を向けると、二人の男は兄弟である。
灼熱の太陽が注ぐ熱を映したような赤を身に着けた男が兄、
砂浜の奥にある美しき自然を映したような緑を身に着けた男が弟のようだ。
どちらもピッチピチの水着を履いており、最大限に筋肉を見せつけている。
厳めしくも整った二人の顔立ちは人々の人気を集めるもう一つの要因かもしれない。
兄「流石は吾輩の弟よ、よくぞ受け止めた!」
弟「おなごを勢いのままに転がすなど、我が筋肉が許さぬさ、兄よ!」
海和尚「あ、ありがとうございますぅ、なんとお礼を申せば良いか…」
(魔物娘の私がひっくり返る重さの甲羅をなんで一人で支えられたのぉ…?)
筋肉の可能性は無限大である。
兄「キミを見つけたのは吾輩の弟だ、礼ならば弟に言ってやってくれまいか」
弟「いや、大したことをしたつもりは無いとも、気にしないでくれたまえ」
海和尚「いえいえそんな!本当にありがとうございますぅ!」
兄「ハッハ!筋肉に謙遜は不要!感謝は素直に受け取っておけぃ!」
弟「兄がそういうのなら……ではともあれ、どういたしましてと伝えるとしよう」
海和尚「あ、あの…!こうして助けていただいたのも何かのご縁ですし、折角なのでお礼に竜宮城へお連れしたいと思うのですが、よ、よろしいですかぁ…?」
兄「竜宮城とな!噂には聞いたが実在するとは!」
弟「だが海の底とも聞いている、我らでたどり着けるだろうか?」
海和尚「あ、そこは私が加護を与えて呼吸ができるようにしますし、竜宮城は乙姫様の力で加護が無くても呼吸ができるんです!だ、大丈夫ですよ!」
兄「加護とやらがあれば道中も呼吸ができるのか、それは良いな!」
弟「では憂いは無いな、いざ参ろうか!」
海和尚「で、ではこちらへ…」
かくして海中の旅となった兄弟たちは、水中で呼吸できることに最初こそ戸惑ったものの、問題ないと分かった途端、我先にと言わんばかりに歩を進めた。
香「え、えと…改めまして私は海和尚の『香』(かおる)と申しますぅ、お香(おこう)とお呼びください」
兄「フゥム…良い香りがしそうだな」
弟「海中で香は焚けぬぞ我が兄よ」
兄「ハッハ!わかっておるとも!」
弟「しかし海を生きる者たちとしては確かに珍しい気もする名だな。いやすまぬ、悪く言ってはおらぬぞ?」
香「いえ、乙姫様がこのあだ名をつけてくれたんです、甲羅の『こう』から取ったのと、あともう一つ意味があるんだとか…?」
弟「自分でも理解してはおらぬのか?」
香「はい…乙姫様が秘密だと…」
兄「気を落とすことはないぞ!いつかわかる日も来ようて!ホレ、吾輩の筋肉をみて元気を出すがよい!」
香「ホ、ホントにすごい体ですよねぇお二人とも……!」
弟「我は兄ほどではないがな…兄こそは選ばれし者だ!」
このジパングにおいてはかつてあまり強大な筋肉というのは持て囃されていなかったが、そこに筋肉光明をもたらしたのがこの筋肉兄弟である。必要以上に鍛え上げられた筋肉は見る者たちを老若男女問わず筋肉魅了してきたが、魔物娘の間では評価が分かれているらしい。
人間たちを確実に筋肉魅了できるのは兄のみであり、そこには彼の身に起きた不思議な筋肉事象が関係しているようだ。
兄「鍛え上げられた筋肉を全霊をもって奮わせながら吾輩は誓った
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