コッペリアの人形師

――――――
―――




「悪霊退治……ねぇ」


城下町の裏通り

この人通りの少ない場所に、知る人ぞ知る店がある

"カフェ・トランシルバニア"

そこで働く一人の少女"テリア"

少しだけ……ほんの少しだけ不思議な力を持つ彼女の下へ、奇妙な客が訪れた


「お願いします!調べていただけるだけでも結構なので……」


深々と頭を下げる男

まだ青年になり切れていない、幼さを残す出で立ちだ

テリアはそんな彼に頭を上げてくれと男に言う


「悪霊退治と言われてもピンと来ませんが……ここが何のお店か分かっていないのですか?」


困ったように問いかける

当然、さっきも言った通りここはカフェだ

悪霊退治なんて以ての外、餅は餅屋に任せるべきだ。などと言っても……


「貴女に頼めば魔物のいざこざは解決してくれると……風の便りで聞いたものですから」

「ああ……」


週一でしか空いていないハズのお店に、一見の客はあまり来ない

来るのは大方、物珍しさに来る極々少数の人間か、彼女と親しい者達か……

この男は間違いなく、後者の者から何かを聞いたのだろう。であれば、そんな話はまず始まらない

交友関係は広い方ではない、噂を流した人物は探そうと思えばすぐに見つかるだろう

しかし、今はそういう状況でもない

まずは目の前の……


「お願いします……!」

「……ハァ、分かりました。男がそう易々と頭を下げないでくださいな」


男の話を聞かなければならなくなった

正直乗り気ではなかったが、ここまでされては仕方がないだろう

何より、彼女は今とある理由で非常に寝不足だ

まともな睡眠時間を取ることも出来ず、気分は最高に最低という訳の分からない事になっている

そんな状態で話を聞くなどと、お人好し……という程でもないが

男の尋常ではない態度に"普通ではない"事を読み取った。まずは話を聞いて確かめてみよう


それは彼女にとって大好物なのだから


……


「どうぞ、コーヒーでも飲んで落ち着いてください」

「……お金を持ってきていないのですけど」


人に物を頼もうとしているのに菓子折り一つ持ってこないとは何事か

機嫌の悪さから出る言いたい言葉をグッと堪え、それでも構わずとその濁った水を差し出した

聞いた話が面白ければ投資という事にしておこう

そうでなければとっとと追い出そう


「それで、私に話したい事は?」


反対側の席へ座り、男の返答を待つ

言いづらいことなのだろうか、その静寂に耐え切れず口を開く


「言いづらい事ですか?」

「……」


優しく問いただしても答えはない

ああ、ひょっとしたら淫魔絡みの話だろうか

確信すると、少し退屈になる

この年頃の男の悩みの一つだ、何か性的な事で話を持ち掛けられるのも珍しいことではない

解決方法を求めてくるか?それとも、淫夢を魅せる夢魔を退治しろとの依頼か?その手の話は聞き飽きた

だが、彼女の思っている事とはまた違ったアプローチを男は見せてきた


「これ……なんですけど」

「あら……」


彼は自分のカバンを漁りだし、机の上になにやら人形のようなものを置いた

飾るにしては大きく、そして艶やかだ

……そう、男が遊ぶあの人形だ


「ダッチワイフとは……女性の私に見せてくるとは、何かの罰ゲームですか?」

「ち、違います!!調べてほしいのはコレの事です!!」


無理にこちらに押し付けられても、触りたくも無いのだけれど……

そんな感情も知らずか、パッと手を離され受け取らざるを得なくなる

何を思ってこんなものを持ってきたやら、男はそんなテリアの表情を見て慌てて言葉を付け足していく


「い、一応言っておきますけど!参考として買ってきただけですよ!ただ、その……変なところは無いかと……」


……変なところ、か

この男が何を言いたいのかは理解した

そう、心当たりはある


「リビングドールと言う魔物は……ま、こんなものを持って私の所に来るのですから、知っていますよね?」


言葉なく頷くと、男はそのまま俯いた

―――リビングドール

人形が意志を持ち、淫魔と化す事で生まれる

粗末に扱われたり捨てられたりした事で他人の愛に飢えるようになった人形の末路

一度生を受ければ、彼女達は精を貪る魔物へと豹変する


だがこの人形はどうだ

上を見ても下を見ても

まして見たくも無いスカートの中身を見ても新品そのものだ

知り得る限りの情報に当てはまらない。こんなものが魔物であるハズも無い

何故こんな話を持ち掛けた……と、思わず呟いてしまう


「す、すみません……」


謝るくらいなら来ないでほしいものだが……

先の尋常ではない態度を思い出し、そこに何か
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