「お邪魔します」
「いらっしゃーい♪」
色々あってあぬさんの部屋にお邪魔することになった。本当に色々ね......
「キャリーケース、ここに置いといて良いですか?」
俺はキャリーケースをひとまず玄関の端に置いておこうと思った。汚れたキャスターを女性の家で引きずる訳にはいかない。
「え?家に上げちゃって良いですよー?」
「いやいや、部屋が汚れてしまいます」
「別に気にしませんよー?」
ずっと思ってたが、本当にアヌビスなのかこの人?まさか、ズボラな人間がイヌミミ付けてるだけじゃ!?
いずれにしろ、俺と価値観が違う人なのは間違いないようだ。
「とにかく、俺はあぬさんの部屋が汚すのが嫌なんです、なのでここに置きますね」
「正志さんがそうしたいなら、どうぞー」
俺は宣言通りにキャリーケースを玄関の端に置き、太陽で熱された革靴を脱ぎ、綺麗に揃えた。因みにあむさんは赤いスニーカーを履いていたが、俺と違い、脱ぎ散らかしている。
ここでも、俺とあぬさんの価値観の違いが見えた。本来のアヌビスならミリ単位で靴を揃えていてもおかしくないぐらいだ。
そんなことを思いながら、あぬさんと一緒に玄関から短い通路を通る。その先は白い扉が閉まっていた。この扉の先がリビングだろう。
「それじゃあ改めてー、ようこそ我が家へー!」
あぬさんは白い扉を開き、気の抜けそうな声を少しだけ張りながら、俺にリビングを見せてきた。が......
「うわぁ......」
汚い。めちゃくちゃ汚い!なんだこの汚部屋は!?
「正志さーん?」
俺は今、衝撃のあまり言葉が出ない。身体も動かない。唯一動く眼球でこの汚部屋を見回す。
衣服はそこらじゅうに脱ぎ散らかされ、ゴミ箱も中身が溢れかえっている!おまけに、背の低いテーブルやキッチンには空のカップ麺やビールの空き缶が無造作に捨て置かれている!
これが生真面目な種族で有名なアヌビスの部屋!?ベルゼブブの部屋じゃなく!?
「おーい!」
「ああ!すみません!」
「だいじょぶですかー?」
「だ、大丈夫です、ハハハッ......」
何でこの人はこの汚部屋を見られて平然としてるんだ!?
もしかして、ゴミの事を資源とか言っちゃうタイプか!?アヌビスだろ、この人!?
「とりあえず、適当に座っちゃってくださーい」
「は、はい、失礼します......」
座れる場所がどこにもない...... とりあえず手を洗おう。俺は足の踏み場を見つけながら、シンクに向かった。
「ええっ......」
シンクも酷い有様だった。水垢だらけで洗ってないであろうコップや皿が置きっぱなしだ。
俺は何も見ていないテイで蛇口を捻って水を出し、近くに置いてあったハンドソープで手を洗った。外の熱気のせいで水はぬるくなっていた。
「私も手ぇ洗いまーす」
そう言うとあぬさんはまだ手を洗ってる俺の真横に来て、手を洗い出した。この間、身体は密着しており、どうしても意識してしまう。この汚部屋の含めて。
俺とあぬさんは手を洗い終えると、下の引き出しの取手にかけてあったタオルで濡れた手を拭いた。
「それで、俺の部屋の鍵は?」
「はい、ええっと.......あれ?」
「あぬさん?」
あぬさんは頭をかきながら部屋を見渡す。嫌な予感がしてきた。
「......どこに置いたっけ?」
「あぬさん!?」
嫌な予感的中!もう俺は自分の部屋に入れない運命なのか!?
「だいじょぶですよー、ちょっと探せばすぐ見つかりますよー」
物が隠れる場所など幾らでもあるこの汚部屋で、部屋の鍵を探す?絶対“ちょっと”ではすまない。
「ほら、多分この辺にー」
そう言って、あぬさんは布団の近くに落ちている衣服をめくりちらかす。隠れていたフローリングが顔を出す。しかし、そこにはホコリしかなかった。
「ないですねー、うーん......」
あぬさんが考え込む。だが、これは考えるより、ガムシャラに探した方が早い気がする。
「あぬさん、俺も一緒に探しますね」
「ああ、すみません。私のせいで」
「い、いえ......」
また許してしまった...... この人はズボラだが、どうも憎めない。とりあえず鍵を探そう。鍵が見つかりさえすれば全て解決する。この汚部屋から出られる。
「それじゃあ、正志さんの部屋の鍵を見つけ出しましょー!」
あぬさんはやる気十分のようだが、見つかる気がしない。というか探し物以前にやるべきことがこの人にはある。
ーーーーーーー
その後、俺とあぬさんはこの汚部屋を隅から隅まで探し回った。
「あぬさん、このテーブルの下は?」
「見てみてくださーい」
一応あぬさんの許可をもらうと、俺はテーブルの下に錯乱
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