家に帰ると見覚えのない小さな木箱とくるりと巻かれた和紙の手紙がテーブルに置かれていた。
出勤する時に玄関も窓も鍵をかけて閉め切ったにも関わらずだ。
こんなことが出来るのは俺が知る限り一人しかいない。
#8212;
#8212;クノイチだ。
閉め切られた家にさも当然のように物を置いていくなんて、あの子にしか出来ない。もはや感心してしまう。
さて、今日は何を持ってきてくれたんだ?
今回はわざわざ手紙まで添えてくれて……
『いつもお仕事お疲れ様でございます。
本日はバレンタインなので、手作りのおはぎを贈らせていただきました。
まだ父上には遠く及びませんが、お口に合えば嬉しいです。
しのぶより』
やっぱりしのぶちゃんか。巻紙から微かに墨の匂いがするな。
それにバレンタインにおはぎっていうのも、あの子らしいな。
どれどれ…… ほのかに甘い香りがする。チョコのおはぎか。
「いただきます」
ひと口かじる。
チョコのやわらかな甘さとほどける餅米がちゃんと合っている。
……また腕を上げたな。
「……お口に合いましたでしょうか?」
「んん!?」
突然、背後から聞こえた声に、思わずむせてしまった。
詰まりかけた喉を潤して、まさかと振り返ると、壁がわずかに揺れた。
「……しのぶちゃん?」
壁がすっと下がると、見慣れた真っ赤な顔が覗いた。
「や、夜分遅くに申し訳ございません……」
「……いつからそこに」
「き、昨日のこの時間からです……」
「丸一日忍んでたの!?」
「は、はい……」
なんて無茶を。常連とはいえ、人の家の壁に丸一日忍ぶなんて。
「なんで……」
「そ、それは……
貴方様がわたくしのおはぎを食している所を、どうしてもこの目で見たくて……」
そのためだけに。なんかもう……馬鹿だな。
「そ、それと……」
「それと?」
「……あ、貴方様に、申し上げたいことが……」
「申し上げたいこと?」
丸一日忍んでまで伝えたいって、どんな
#8212;
#8212;
「……ず、ずっと!
ずっと貴方様をお慕い申しておりました!
一生お側にいさせてください!」
……えっ?俺、今
#8212;
#8212;プロポーズされたのか?
恥ずかしがり屋の、しのぶちゃんに。
それなら
#8212;
#8212;しのぶちゃんの勇気に俺も応えよう。
「しのぶちゃん」
「は、はい……」
「俺も
#8212;
#8212;しのぶちゃんが好きだ。結婚しよう」
「ええぇぇ!?けけけ、結婚!?」
「えっ?だって今、しのぶちゃん。俺にプロポーズしてくれたんじゃ……」
「へっ
#8212;
#8212;?」
しのぶちゃんが一瞬、固まる。
「ああああっ!!ちちち、違うんです!」
「ええっ!?違うの!?」
「ち、違わないです!だけど違うんです!」
「どういう意味!?」
「だから!あの…… ああああっ!!ドロンさせてください!!」
「ちょ!?待ってしのぶちゃん!」
反射的にしのぶちゃんの腕を掴んだ。
「離してください!後生ですから!」
「しのぶちゃん!落ち着いて!」
「隠れ身の術!隠れ身の術!隠れ身の術!」
駄目だ。完全に我を失ってる。
こうなったら一か八か……
ここでしのぶちゃんを逃したら、絶対に後悔する。
「しのぶちゃん!!」
「ひゃっ!?」
意を決して、しのぶちゃんを抱き寄せた。華奢な身体が胸にすっぽり収まる。
「……しのぶちゃん」
「は、はい……」
「君に言わせちゃってごめん」
「は、はい……!」
震える瞳の奥にある覚悟を、真正面から受け止めた。
「俺と結婚してください。
そして一生、俺の隣でおはぎを作ってくれ」
張り詰めていたものがほどけるように、とめどなく涙が溢れた。
「……は、はい……っ。
わたくしは……っ、
死ぬまで、貴方様をお慕い申します……!」
「しのぶちゃん……」
俺は、愛しい妻に、そっと口付けた。
「これから、よろしくね」
「はい……っ、不束者ですが、末永くお願い申し上げます……」
もう一度、そっと口付けた。
しのぶちゃんの涙は、ほんのり甘かった。
「ねぇ、しのぶちゃん」
「はい……」
「俺に、おはぎの作り方を教えてくれないか」
「えっ?おはぎの、ですか?」
「俺、あの店を継ぎたい」
「えっ!うちのおはぎ屋を、ですか?」
「君の隣で、俺も一緒におはぎを作りたい」
涙で濡れていた瞳が、真っ直ぐ、俺を見つめ返した。
「……厳しい、ですよ?」
「覚悟の上だ」
「それに、わたくしもまだ修行中の身で、父上の味にはまだまだ遠く及ばないですし……」
「それでも、俺はしのぶちゃんがいい。
しのぶちゃんの作る
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