病魔の正体

腹痛が治った僕はさっきと同じようにテーブルを挟んでイルネスと向かい合うように座った。

 目の前のテーブルの上には腹痛の元凶であるイルネスの美味すぎるコンソメスープが良い匂いで鎮座していた。

 この味を知ってしまったからか、もはやスープが光って見える......!

「それじゃあシック、ゆっくり食べるのよ?」
「分かってる」
「それじゃあ......ん」

 両手を合わせたイルネスに合わせて、僕も同じように両手を合わせた。

「「いただきます!」」

 よし!ゆっくりたくさん食べよう!さっそく一口......

「アッツっ!!」

 熱い!舌が一瞬焼けたような気がしたぞ!なんだこれ!?

「ああ、ごめんなさい。シックのはかなり熱めにしといたのよ。言い忘れてたわ」
「なんでこんなに熱くするんだよ!?」
「食べ過ぎ防止よ。しっかりふーふーして食べてね」
「......分かったよ」

 しっかり冷めして食べよう。口の中を火傷したら、いよいよ何も食べられなくなる。

 僕は熱々のコンソメスープをスプーンですくい上げ、それをすぐに食べたい気持ちを抑え、入念にスープを吹いて冷ました。

「美味い!」

 しっかり冷まして食べるとやはり絶品だ!もっと勢いよく食べたい......

「ダメよ!」
「え!?」
「思い切り食べたいとか考えたいでしょ?」
「なんで分かるんだよ......」
「そんな恋しそうな顔でスープ見つめてたら、ね」

 僕は本当に顔に出るらしい...... いや、スープ見つめてたからか......





ーーーーーーーーーーーー

 その後は僕もイルネスも無言でコンソメスープとパンを食べていた。気まずい......

 しっかり冷まして食べるという食べ方に慣れ始めた頃に、僕は大事なことを思い出した。

「......なあ、イルネス」
「何かしら?」

 お互いに食事に夢中だったのもあって、話しかけづらい空気が流れていたが、僕は意を決して優雅にスープを食べるイルネスに声を掛けた。

「......お前は一体何者なんだ?」

 イルネスのスープを食べる手が止まり、スープに向けていた視線を僕に移した。

「うーん、何者かと言われれば......シックの妻?」

 一瞬だけ真剣な眼差しになったかと思えば、次の瞬間にはいつもの穏やかながらミステリアスなイルネスに戻り、僕の真面目な問いに冗談めいた回答で答えた。

 ここで苛立ってはイルネスの思うツボかもしれない。僕は出来るだけ平静になった。若干の苛立ちが顔に出てなければいいが......

「なあ、僕はイルネスのことが知りたいんだ」
「......」

 イルネスは一瞬だけ驚いたような表情を浮かべた後、真剣そうな表情で無言になった。

 今までと雰囲気が変わったイルネスに僕は言い知れない恐怖を覚えた。

 すると、イルネスの方から真剣な表情で僕に聞いてきた。

「何を知りたいの?」

 そんなの......決まってる!

「全て」

 僕は彼女の全てが知りたい。妻になる女性の全てを知っておきたいと思うのは当然だ。

 まあ、理由はそれだけではないが......

「......そう、まあ当たり前よね」
「それじゃあ......」
「教えてあげるわ。私の全てをね」

 どこか恐ろしい雰囲気だったイルネスは一転して、満足気に穏やかな笑みを浮かべていた。

 なにはともあれ、これで知りたいことは全て知れそうだ。

 それにしても、自分のことを聞かれただけであんなに雰囲気が変わるって一体......?

「それで、何から知りたいの?」
「君はどこから来たんだ?」

 イルネスは真夜中に突然この家にやってきた。ここに来る前の彼女のことが何も分からない。

「ここからずっと遠い魔界国家から」
「魔界国家?どこだ?」
「レスカティエよ」
「レスカティエ!?」

 聞いたことがある!世界でも有数の勇者国家だったが、魔物の侵攻を受けて、魔界と化したという......

 当時の新聞には大事件として大々的に載っていたし、この街の住民や教団も大騒ぎ。僕にとっても衝撃だった。

「ええ、ちょっと前までそこで騎士団長をやっていたわ」
「き、騎士団長!?イルネスって騎士だったのか!?」
「フフッ、まあね♪」

 魔界と化したレスカティエで騎士団長!?イルネスって実はかなり強いのか!?

「なんでやめたんだ?」
「飽きたのよ」
「飽きた?なんで?」
「訓練ばかりで全然戦いが起こらないからよ」
「そ、そういうものなのか?」
「そういうものよ」

 要は戦えないから騎士団やめたってことか。

「それで、騎士団をやめた後はすぐにレスカティエを出たのか?」
「ええ、すごく暇になっちゃったから」

 暇になるって....
[3]次へ
[7]TOP [9]目次
[0]投票 [*]感想[#]メール登録
まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33