病魔の疑惑


「それじゃあ、手を合わせて!」
「え?」
「合わせて!」
「あ、ああ......」

 ここはイルネスの言う通りにしないと一生目の前の朝食にありつけなさそうだ......

 急かすような視線を送ってくるイルネスに見せ付けるように、僕も両手を合わせた。

「お母さんかよ......」
「妻よ」
「えっ!?」

 しまった!また顔に出てたか!?

「口に出てたわよ?私は地獄耳なの」
「そ、そうなのか......」

 なんというか屈辱だ。顔どころか口にまで出てしまっていたとは。

「ほら、そろそろ本当に冷めるわよ?」
「あ、ああ、そうだな。食べよう」

 僕はわずかに残った屈辱感を胸にしまい、改めて両手を合わせた。

 そして、両手を合わせっぱなしだったイルネスは、僕が両手を合わせたのを確認すると、満足そうに微笑んだ。

「うん!それじゃあ...... いただきます!」
「いただきます......」

 イルネスの言葉に合わせて、僕も彼女と同じように言った。

 といっても僕はまださっきの僅かな屈辱感が邪魔をして、彼女のように意気揚々と言うことは出来なかったが。

「うーん、美味しい!我ながら最高の出来だわ!」

 僕のそんな屈辱感を他所にイルネスは自分が作ったコンソメスープを一口食べて、満足そうに自画自賛していた。

「ほら!シックも早く食べて!私のスープは病みつきになるわよ!」
「病みつきって...... お前が言うと恐ろしいんだが」
「あら、ごめんなさい♪ジョークのつもりだったのだけど」
「全く笑えないぞ......」

 こっちは昨日まで本当の意味で病み付きの身体だったっていうのに......

 ペイルライダーはみんなこうなのか?それともイルネスのデリカシーがないだけか?

 まあ、それも含めて色々聞いてみるか。

「なあ、イルネス。お前はどこから
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「食べて」
「え?」
「さっきから喋ってばかりで一口も食べてないじゃない!」
「ああ、そういえば!ごめん、食べるよ」

 イルネスの笑えないジョークのせいで、目の前のご馳走を忘れていた...... 少し冷めたな......

 まあ、ちょうど良い温度になったし食べよう。病魔の作った料理とはいえ、美味しい内に食べないのはもったいない。

 それじゃあ、スプーンが一口......

「美味い......!美味いぞ!」
「フフフッ、お気に召したかしら?」
「うーん!パンも美味い!」

 こんなに美味いものを食ったのは生まれて初めてだ!

 久しぶりのまともな料理というのもあるかもしれないが、スープを口に運ぶスプーンが止まらない!美味すぎる!

「フフフッ!お気に召したようね。でも、そんなに急いで食べない方がいいわよ?」

 何か言ったイルネスの方を一瞬見ると、僅かに心配そうな顔で僕を見ながら、上品にスプーンに入ったスープを啜っていた。

 それにしても、コンソメスープとバゲットはかなり合うな!バゲットをスープに浸して食べてみたら、これもまたうま
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「ウッ!!」
「ほら。だから言ったのに」

 なんだ!? お腹が......痛い......!? なんで......急に......!?

 突然の強烈な腹痛に僕は椅子ごと倒れてしまった。お腹程ではないが、身体中も痛くなった。

 そして、気付けば身体が横向きになり、膝をお腹の方に曲げていた。

「動けるかしら?とりあえずベッドで横に
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#8212;」
「お前っ!!」

 真剣そうな顔で僕を見下ろすイルネスが僕を起こそうとしてきたが、僕は彼女の手を片手で振り払った。

 こうなった原因はコイツだ!コイツの作ったコンソメスープだ!

 コイツ......また......!!

「その腹痛は私のせいじゃないわよ」
「とぼけるな!!ウゥ......!!」
「大声出さない方が良いわよ?痛みが増すわ」

 クソッ!確かに大声出した直後が一番痛い!

 だがこれで決まりだ!この腹痛の原因はイルネスだ!この症状に詳しいし、やけに冷静だ。

 そして何より、コイツは病魔だ!昨日だって僕を病に犯した!

 そのことも含めて、この朝食の間に聞き出そうと思ったら......美味過ぎたとはいえ、毒を、いや、病原菌を盛られるとは...... クソッ!完全に油断してた!

「とにかく、ベッドで横になりなさい。そのうち痛みは引くはずだから」
「だから、とぼけるな!!ウッ......!お前がスープに病原菌か何かを盛ったんだろう!!グゥゥ!」

 大きい声を出すと痛みが増す。分かってはいるが、感情を抑えられない!

 コイツのせいで、また僕は......
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