とある反魔物領にあからさまに不審者っぽい男がいた。
全身をすっぽり包む黒のマントとフードを目深に被り顔を隠している。
これだけでも怪しいが、マントの背中の部分が不自然に盛り上がっている。
形状からして、おそらく剣。しかも小柄な男に合わないほどの大剣。
そんな不審者はスラムのとある汚い酒場にいた。
「・・・そうですか。」
トーンが高い、残念そうな声。
非常にこの場にお似合いな形に反して、不釣り合いな声色をしている。
「すまねぇな小僧。そもそも反魔物領のそばに魔物なんかよりつかねぇ。いないとこにゃ討伐依頼なんぞきやしねぇよ。」
「・・・そうですね。わざわざありがとうございます。」
「・・・誰か探してんのか?」
「!・・・いいえ。」
「そうか。ならいいんだがよ・・・。」
酒場の店主をやっていると自然と人を見る目ができあがるのだろうか。
何かを察した様子であったが、何も触れずにいたのは優しさか鬱陶しさか。
どちらにせよ彼は『特定の誰か』を探してるわけではない。
「・・・まぁ、その辺にいるやつらなら何か情報なりもってんだろ。酒場ってな『そういう』場所だしな。」
「・・・そうですね。そうしてみます。」
ちょうど朝日が昇り始めたころ、彼はとある洞窟に来ていた。
先ほどの都市とはさほど離れていない洞窟であるが、最近ワームが住み着いたらしい。
やはり冒険者があつまる酒場での情報交換は効率的だなと感心しながら、彼は洞窟へ入っていく。
洞窟の奥へ進むと、だんだんワームが居るような痕跡が見受けられる。
粗く削り取られた岩壁、砕かれて石や砂になってしまった岩、あげくにはワームが掘り起こしたであろう穴まである。
「これは・・・地中を掘り進んでこの洞窟に来たのか・・・。」
洞窟の入り口付近にはこのような痕跡が見られなかったため、装結論づけられる。
実際、ワームの力なら岩盤を掘り起こすぐらい簡単だろう。
人のにおいに誘われて来たのだろうか。それともたまたまここにたどり着いたのだろうか。そんなことを考えてると―
ごごご・・・
と微かな地鳴りが聞こえてくる。
「気付いた・・・ね。」
と呟くと、おもむろに駆けだした。
広い場所広い場所。
そう言いながら彼は洞窟のなかを走る。
そして、明かりの差す開けた場所にでた。
「ん・・・。」
暗い場所からいきなり明るい所に出てきたからか、目に少しだけ痛みを覚える。
そして、
「わ・・・。」
大きな穴があった。
天井の巨大な穴から差す光に照らされ、少しだけ寂しくも神秘的な光景が目の前にあった。
「ここから入って来たんだ・・・。」
感傷に浸っている間にも地鳴りは確実に大きくなってやがて小さな地震のような揺れを伴ってきている。
「さて・・・。」
ばっ!とマント投げ捨て、大きな剣を鞘から引き抜く。
少年から青年への過渡期といったところかあどけなさと精悍さを併せ持つ彼の顔があらわになる。
そして―
ばごん!という轟音とともに巨大な巨大なモノが飛び出してきた。
傾国というのか、絶世の美女の上半身に、蛇のように長く、しかし硬質でごつごつした鱗がびっしりと生えている下半身は紛れもなくワームそのものであった。
「あはぁ
#9829;」
オスの匂いで発情して完全に興奮状態にあり、非常に危険だということが一目で分かる。
その蕩けた表情から察するに、随分と長い間『おあずけ』状態だったのだろうか。
「随分と司祭の野郎が言ってたのと違いますね。」
教団と袂を分かった元勇者として、魔物に関する知識がいかに偏っているかを痛感したが、すぐに戦闘に入ると予想されるこの状況で呑気に長考している暇はない。
ずしん!と重々しい音とともに地面に下り立つと、
「オスゥゥゥゥゥゥ
#9829;」
と奇声を上げながら全力で突進してくる。
両手を広げて逃げ場を無くし、確実に捕まえようと目前まで迫ってくるその様は、さながらファランクスを組む重装歩兵部隊といったところか。
がりがりと地面を削りながら全力疾走するその姿に、生半可な勇者では失禁そ禁じ得ないだろう。
「はっ!」
と一喝。ブン!と肩から腰にかけて袈裟斬りの要領で剣を這わせる。
ギィン!という硬質音と共に剣はその手に遮られてしまうが、力を込めて押し切ろうとする。
結果、ガリガリとワームと共に岩壁に突っ込む形になる。
彼は壁に激突する寸での所で軽く跳び、壁を足場にして再び跳躍する。
どごん!と鈍い音と共にワームは岩を粉々に砕きながら、頭から壁に埋没する。
「っつ〜・・・。」
腕が痺れる。裂くような痛みもある。
おそらく筋繊維が断裂しているだろう。
使えないわけじゃない。まだ戦え
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