「…。」
「…。」
「なぁ…。」
「な、なによ!」
「いつまでついてくる気だ?」
「お、お前が私と結婚してくれるまでだ!」
「だから…その気はないって言ってるだろう!」
「何故だ!?」
「何回も言った通り魔物と一緒だと反魔物領に行きづらいんだよ!」
「そ、そんな差別主義者の巣窟など行かなければよいではないか!」
「俺は人捜しをしてるんだから全ての国を回る必要性があるんだよ!」
「ぐぬぬ…。」
さわやかなそよ風が吹き抜ける森の中を通る街道、一組の男女が大喧嘩している。
男性の方は背は低め、だが体は筋肉質であり日頃から鍛えている戦士だとわかる。
女性の方はリザードマンという生粋の戦士の血族である。
女なのになんでマンなのかは神のみぞ知るところだろう。
リザードマンが男を追いかける理由など一つしかないわけで、この男は3日前にこのリザードマンを打ち負かし、それ以来ずっと一緒に旅をしているというか、つきまとわれているというか。
―3日前―
「そこの男!止まれ!」
「?」
とある街道、人通りはそれほど多くなく、むしろ今は人っ子一人いない状態であるから、人違いなんてことは起こりえないわけで、
旅の武道家ランは引き留められ、振り向いた。
(リザードマン…面倒なのに絡まれたな。)
ランはジパングの出身で8年前に故郷で攫われた少年を探し旅をしているのであった。
(これは「手合わせ願おう!」っていうパターンだよね…。)
「私はクローディル家長女、アリム!手合わせ願おう!」
(うわっ捻りねぇ!)
大剣を鞘から抜きながら、思いの外そのまんまな発言をしたリザードマンに驚愕しつつ、無言で両手を開き体の前に構える。
「…貴様、私を舐めているのか…?」
「…。」
ランは上は丈長の白のチュニックに下は紺色の袴という大陸とジパングの着物を完璧に着こなせてない感じの服装をしていて、袴の帯にはカタナというジパング特有の剣を提げていた。
(抜刀してもいいけど、全力で行かないと失礼だし…。)
ランは剣術よりも体術の方が得意なのであえて抜刀しなかったのだが、
「自ら名乗りも上げないとは…、貴様それでも戦士か!」
(名乗りを上げるのは騎士だろう…。)
だんまりが気にくわないのか異様に食ってかかるアリムに若干うんざりしながら、
「…ラン=ヒイラギ。」
「…まぁいい…ゆくぞッ!」
だんッ!と地面を蹴るすさまじい音と共に一跳躍でランに迫る。
(右肩が下がり、左肩が上がる。左上腕の筋肉が硬直してるってことは…。)
「はぁッ!」
右足を一歩右に、そのまま左足を引きつけ半身をとる。
ランの位置がずれたことにより逆袈裟斬りが空振る。
(からの横薙ぎでしょ?)
「やぁッ!」
ものの一歩で恐ろしい速度の逆袈裟を避けたランを見て、アリムは一撃必殺の縦斬りを当てるためにはまず傷を負わせてから動きを鈍らせることを考えるのは至極当然のこと、これを思いっきり腰を落とすことでぎりぎり回避する。
(といっても人間ではあり得ない速度で飛んでくるから危ないんだけど…。)
屈んだことにより動きが鈍ったところでアリムの縦斬りがランの頭に振り下ろされる!
「これで…終わりだぁッ!」
―ぐるん―
と視界が反転し地面に押さえつけられる。
「動くな。」
うつぶせに倒れたアリムの背にランがのし掛かり、全体重をかけて彼女を拘束する。首元には己の剣が突き付けられている。
「貴様…今…何を…?」
「…。」
すっとアリムから離れ、街道に戻ろうとするランに、
「ま、待て!」
と制止の声がかかる。
「…?」
なんだよ、とでも言いたげなめんどくさそうな顔で振り向くと、顔を真っ赤にして、
「わっ私の…その…おおおおお夫になって添い遂げてくれ!」
―今―
いい加減しつこい。
正直人見知りが激しく初対面の人の前ではまともに喋ることもできないランにとって、この3日間愛してると叫びながらずっとつけ回す女性の存在に疲れていた。
そのせいか少々喧嘩腰になりがちで昨日から言い争いが続いている状態である。
こんな状況でも諦めないリザードマンの習性は驚嘆に値する。
もちろん、この3日間何も無かったわけではない。
街道には商人や冒険者を狙った追い剥ぎや山賊も出る。
達人と言ってもいいレベルの戦闘能力を誇る2人にとって、弱者ばかりを狙うハイエナ共の20人や30人たいしたことは無いのだが、背中を任せられる安心感もあり、協力して2回ほど襲撃者を完膚無きまでに叩きのめしたりもした。
そういう意味では信頼関係はさほど悪くはない。
が、
「いい加減あきらめろよ…。」
「私はお前を夫にすると決めたんだ!今更他の男に浮気など…クローディル家の名に恥じる行為だ!」
(知らねぇよ
[3]
次へ
[7]
TOP[0]
投票 [*]
感想