偏屈少年の婿入り

とある山中、標高はそれほど高くなく、草木が生い茂り、けもの道のような山道を一人の少年が歩いていた。
背は平均より低く、厚底のブーツに革の軽鎧、深緑色のマントを羽織った黒髪黒目の少年であった。
名をシユウと言う。
人の手で整備されていない山道は、通常の倍体力を奪うらしく、シユウの息は少々乱れ、うっすらと全身に汗をかいていた。
彼が休憩を取ろうと近くの木陰に入ったとき、

―がさがさっ―

茂みが揺れた。

「…誰?」

と恐る恐る問いかける。

すると、茂みからぴょんぴょんと灰色の丸っこいふわふわした耳の長い小動物が逃げるように走り去って行った。

「ウサギ…?」

彼は違和感を覚えた。
というのも茂みの揺れ方からして、小さな生き物ではないと思っていたからだ。

「…誰か居るの?」

再度呼びかける。

次の瞬間、少年目がけて大きな影が飛びかかった!

「ッ!」

咄嗟に身をかがめ、影を回避する。

しかし、

バシンッ!

という大きな音と共に彼の体がさらわれる。

「ウフフフ。つーかまーえた♪」

嬉しそうな声と共にシユウは太いロープ状の物に巻き取られたのだと気付く。

「ら、ラミア…さん…?」

それは上半身は艶やかな金髪を持った美女の姿をしていた。
淡桃色のその豊満な胸を覆う布と同色の腰布。
登山には向かない…というよりは山にいる方が不自然な格好をしていた。
しかし、下半身は緑色に濃緑色の模様が入った大蛇の姿をしていた。
少年は大蛇の下半身に巻き付かれ拘束されていたのである。

「何かしら?人間の坊や?私にはリーシャという名前があるのだけど…。」

「り、リーシャさん。」

「フフ。なあに?」

「あの、僕、その、あなたをさがしてて…。」

「あら?どこかで会ったかしら?」

「いえ、あの、初対面ですけど…。」

「フフフ…。カワイイ口説き方をするのね。」

「そ、そうじゃなくて…、その、聞きたいことが…。」



「―つまり、私を探していたわけじゃなくて魔物を探していたってことね。」

二人は山道を登っていた。
この先にラミアの里があるということを聞いて「連れて行ってください!」と頼み込んだからである。

「はい、その…。すみません。」

「別に責めてるわけじゃないわ。…あなた大分変わってるわね。」

「そうでしょうか?」

「ラミアの里に行きたいなんていう人間は一人も見たことが無いわ。」

「…僕も見たことないですね。」

実際、シユウという少年は変わり者である。
この少年、反魔物領の領民でありながら教団の教えを信じていない。
それどころか、魔物が人を食らうという事が信実か確かめる為に魔物が出るという山に来てしまう始末である。
簡単に言えば〈大人の言うことを素直に聞き入れない〉問題児で、〈とりあえず人の言うことは疑ってみよう〉という非常に扱いづらい性格をしている。

「リーシャさんは…」

「リーシャでいいわ。あと敬語も使わないようにしましょ。」

「あ…リーシャはなんであそこに?」

「狩りの途中だったのよ。」

「あ。」

「フフ。そう、あのウサギ」

「…ごめんなさい。」

「気にしないで。狩りの標的がウサギからあなたに変わっただけよ。」

「え!?」

「ほら、見えてきたわ。」



―目の前に広がるのどかな集落の風景。
ラミアと人間(全員男性)が入り交じり生活している。
まるで教団と魔王との戦争なんて存在しないかのような。
平和そのもの。シユウの憧れていた景色。―

「わぁ…。」

「どうかしら?」

「すごく…すごく良いところだね。」

「気に入ってもらえてなによりよ。さぁ入りましょう。」



ラミアの里。人口は30人ほどの小さな集落である。
主に人間のために、農業と果樹栽培を営み、3日に1度のペースで狩りを行う。
食料は小麦やとうもろこしといった穀類、ブドウやオレンジといった果物、トマトやタマネギといった野菜類も取れ、非常に豊かな暮らしをしている。
家畜は飼っていないものの、狩りで賄える規模の集落なので、タンパク源には困っていない。

「村長!」

「あらぁ。リーシャさん。狩りにでたのではぁ?」

村長を務めるにはちょっと心配になるようなおっとりした女性(ラミア)。リーシャがまず村長に挨拶に行こうというのでシユウはリーシャに連れられて村長の家に来ていた。

「迷子の坊やを拾ってね。」

「迷子ですかぁ?」

「は、はじめまして。シユウと言います。」

「あらあらぁ。可愛らしいお婿さんですねぇ。」

「え。」

「ではぁ…リーシャさんのお家でちゃぁんと面倒見てあげてくださぁい。」

「分かっていますよ。フフ。さぁ、家はこっちよ。」

「あの、ちょっと。」

優美に手を振る村長を背にシユウ達は家の中へ入っ
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