妹はもう止まらない

寒い…。
 血を吸われてから少し眠っていたようだ。春とはいえ、まだまだ肌寒く自然と体がブルッと震える。
 首筋の血はハンカチを使わなくても乾いていた。軽く首元を拭く。
 ふと、時計を確認すると30分ほどたっていた。急いで大学へ向かう。
 
………


 今日一日の講義を終え、今は涼花を迎えに高校に向かっている途中だ。
 理由は道案内と今夜の晩飯の買い物に来ている、訳だが。

 「何しているんですか楓さん?私と兄さんのデートですから邪魔しないでください」

 「あら、私は彼から買い物に行くとしか聞いてないのだけど?」

 「ぐぬぬ…」

 なお、大学からついてきた楓もオマケでだ。
 買い物は、空気が重いながらも無事終わり、俺たちは帰途に着いた。
 
 途中で涼花が俺の近くにより何か暗い表情をしていたことを除けば。

 「…兄さん」

 玄関に入るや否や、涼花が俺に寄りかかりそのまま抱き付いてきた。
 若干目に涙を溜めながらもまっすぐこちらを見つめる。

 「…楓さん、ですよね」

 「…!」

 「まだ何も言ってないですよ兄さん」

 「…うっ」

 「フフッ、分かりやすい反応ありがとうございます」

 腰に回されている腕が力を強め、さらに俺を強く抱きしめる。
 まるで誰にも渡さないと言わんばかりに。

 「で、シたんですか?セックス」

 胸板に指で”の”の字を書くように涼花の細い指が這う。

 「…してないよ」

 「そう、ですか。…兄さんは昔から私に嘘はつきませんもんね」

 「一応シてないことにしておきます。信じてますからね兄さん?」

 普段の彼女からは想像できない程の艶めかしい声に、釘付けになる。
 そのせいか、突然涼花が首筋を舐めたと分かるまで随分と時間を要した。

 「なっ…涼花?」

 「フフッ…大好きですよ兄さん…♪」

 舐めることに飽きたのか、首への愛撫を止めると耳元で甘く囁く。

 「さて、兄さんお風呂沸かしてきますね…湧いたら兄さんが先に入ってくださいね」

 そう呟きながら離れて風呂場に向かう涼花。
 
 「…俺の妹が吹っ切れてさらにデレるわけがない!」
 
 俺の心からの叫びもむなしく廊下に響くのみだった。

―――――――
―――――

 『―へぇ、そんなことがあったのね』

 風呂場で楓に先ほどまでの事を話す。だが使っているのは携帯電話ではなく、楓の魔力で作った蝙蝠型の使い魔を通しての会話だ。
 拳一つ分くらいの小さな蝙蝠を横目に肩まで体を浴槽に沈める。溢れたお湯が排水溝に心地よい音を立てながら流れる。
 
 「前から慕われていると思ったが、大胆な行動に移す様な性格じゃないのに何で今日になってあんな事を…」

 大きく息を吐きながら目を瞑り、そう呟く。
 目の前の蝙蝠は何処か呆れた様な様子で俺の顔をじっと見つめてくる。

 『そりゃ、自分の好きな人が他の女の香りをしていたら焦るわよ』

 「その元凶が良く言うよ」

 『だってそれはワタシも同じだもの。最近彼女も理性と肉欲の境目があやふやになってるからこっちはいつ貴方を取られないか心配なんだから』

 もともとお前のでもないんだけど。

 『まぁ、煽った責任として一つ襲われた時の対処法を教えてあげる』

 『ヤられる前にヤれ!』

 「一回辞書で対処法を引いてこい」

 蝙蝠を窓から投げ、すぐに窓を閉めてカギを掛ける。
 外ではキーキー鳴いている声が聞こえるがスルーを決め込む。
 カタンッ、と脱衣所の方で音がした。ふとそっちの方に目線を向けると曇りガラス越しに涼花の姿が見える。
 洗濯物をとりに来たかと思ったが、まだ洗濯機は音を立てながら回っている。

 パチッ!
 
 視界が突然闇にのまれる。
 どうやら浴室の電気を落としたらしい。

 「す、涼花?」

 謎の行動に震える声で扉の向こうに声を投げる。
 暗いせいで動こうにも中々動けないでいた時、カラカラと扉が開いた。

 「フフフ、兄さんって本当に正直ですよね。嘘でもヤッた事にすれば私も素直に兄さんを諦めることが出来たかもしれないのに」

 「兄さんがいけないんですよ。さっさとやることやらないから我慢できなくなっちゃいました」

 「首筋に残ってた血の匂いを嗅いでたら頭がボーとして、もう我慢するのがバカらしくなりました」

 「だから、大人しく私とエッチしてください兄さん♪」

 …ピンチ俺!
 
16/02/26 00:51更新 / ツキシマ
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