「おはよう」
玄関を出ると声を掛けられた。幼馴染の楓だ。
家が隣同士が縁で、楓とは物心つく前からの付き合い。もちろん学区も一緒なので小学校も一緒。中学高校も一緒というテンプレが形を持ったような幼馴染だ。
ヴァンパイアである彼女にしては珍しく、朝早くから外に出ている。いつもは転移魔法で学校まで行くはずだが、今日は気だるげに金色の髪を揺らしている。
「おはよう楓。珍しいなお前が朝から外に居るなんて」
「誰かに抜け駆けされると困るもの。…ね、涼花?」
「…おはようございます楓さん」
後から来た涼花も俺の陰に隠れながら挨拶を返す。
これが漫画なら二人の間に火花が散っているだろう。険悪な雰囲気に包まれる。
種族的な相性か、はたまた昔からの積み重ねか、この二人は修復不可能に思える程仲が悪い。間違いなく俺が原因で、だ。
好きになった理由はともかく、この二人からの好意にはずいぶん前から気付いていたし、男冥利に尽きる。
だけど、それが理由で二人で争っている姿は見たくない。自分勝手で最低だと自覚しているが、万が一流血沙汰になりかねない。初めて会った時はまだ仲が良かった筈なのに。
「と、とりあえず学校行こうか」
震える声でやっと絞り出す。二人も機嫌が悪そうだったが、渋々歩き出した。
重い空気のまま分かれ道に到着する。ここからは涼花と別れることになる。
「涼花はこの先も道大丈夫だよな?」
「覚えてない…と、言いたい所ですが大丈夫ですよ兄さん。日曜日にデートついでに確認しましたもの」
急に胃に痛みが走ったような気がした。地雷を避けてきたのに向こうから地雷が走ってくるなんて酷い話だ。
「待て、デートじゃなくて町の案内だったろ!?楓が般若みたいな顔してるから火に油を掛けないで!」
数十分掛けてデートでは無いことを説明し、ようやく涼花が高校に行かせることが出来た。
―――
「……」
無言が怖いです楓さん。せめて何か喋ってください。
数秒後、決心したような顔をすると楓は、手近な路地裏に引っ張り込むと、俺を壁に押し付けて壁ドンをしてきた。
「血を吸わせなさい。拒否は許さないわ」
低い声でそう呟くと首筋に噛み付こうとする。
体を動かそうとしても、ピクリとも反応しない。恐らく拘束魔法でも使っているのだろう。彼女の小さい口を出来る限り大きく開かれ俺の首筋を噛む。
僅かな痛みの後に度数の強い酒でも飲んだみたいに、体が燃えるように熱くなる。血はどんどん吸われているのに下半身に血が集中し、目の前が霞んでいく。
「……そのハンカチは上げるわ、魔法を掛けてあるから、それで傷を拭けば治るはずよ」
満足したのか、俺の血を吸い終わると軽く口から垂れている血をハンカチで拭き取り、俺の右手に持たせると見るからに発情しきった表情のまま転移魔法で大学へ飛んで行った。
一人残された俺はボンヤリと空を見上げて力が入るまでただじっとしていた。
頭の中ではただ一つの疑問がぐるぐると回っていた。
涼花と楓。どちらかを選ぶ時が来たとして、俺は選べるのだろうかと。
[5]
戻る [6]
次へ
[7]
TOP [9]
目次[0]
投票 [*]
感想[#]
メール登録