二人からの変化

 『…でさー?コウ。私が言いたいのはね、魔法少女とかニンジャだからってね、テンプレみたいにNTRに持っていくのはおかしいと。むしろせっかくのファンタジーなんだからもっとだね…』

 「分かった分かった、十分お前のNTRに関する嫌悪感は1年前から耳にタコが出来るくらい聞いてるって」
 
  主に『十分』を強調して、マイク付きのヘッドホンから聞こえる興奮した声を遮り、近くにあったミネラルウォーターを口に含む。
 先程まで酔っているんじゃないかという位興奮していたのが、今では嘘のように静かだ。と、思ったが次はチャット機能で大量の『バーカ』が表示される。
  そんな子供じみた嫌がらせを横目に時計を見ると、すでに時刻は深夜の1時を過ぎて、もうすぐ2時になる頃だ。
 明日が日曜でかつ、悲しくなるほど予定が皆無とは言っても、そろそろ布団に入り、意識を手放す時間帯だ。
 決してスカイプを開き、腐れ縁のエロゲ―マーの愚痴を、6時間延々と聞いているのは間違っている。絶対に。

 『むぅ…』

 パソコンの前で幼馴染である樫木梨紗は、不満げにため息を漏らす。
 学校をさぼって引きこもってまでも、ゲームに費やし続け早数年。
当の昔に昼夜が逆転している彼女にとって、これから本調子という時に遮られて多少気分が悪いのだろう。
 なので健康的な生活を送りたい俺にとっては、生活リズムが合わないのは当然の事で。

 「さて、俺は眠い。悪いがそろそろ切るぞ」

 『えー…もうちょっと話そうよ』

  不満そうな声で駄々をこねる。

 「朝がキツイから無理だ」

 『明日、というより今日は日曜日じゃん』

 「月曜に響くだろう。明日から学園祭の準備があるんだし」
 
 『そっか、もうそんな時期か』

 「だから、そろそろ切るぞ」

 学校の話題を出すと梨紗の声が低くなったような気がした。
 焦って少しぶっきらぼうになってしまった。

 『…そっちがその気なら、そっち行くから』

 「え?」

 梨紗はそう小さい声で呟くと、通信を切った。その10分後

 「来ちゃった、今夜は寝かせないぞ♪」

 「帰れよ。深夜だぞ」

 ご自慢の金色のツインテールを揺らしながら、俺の家に突撃してきたのであった。
 玄関先での『帰れ』『嫌だ』の激しい応酬の後、梨紗の入れないと大声を上げるという卑怯な脅しに屈し居間に通すことになった。
 夕飯の残りをレンジで温め、梨紗にお茶を出す。
 当の梨紗というと持ち込んだノートパソコンを立ち上げ、熱心にエロゲをしていた。安いヘッドホンを使っているからか、耳を澄ますと微かに音漏れしているのが聞こえる。
 
 「ふひひ…可愛いのぅ」

 「腐れ縁とはいえ飯を深夜に男の家にたかりに来て、挙句の果てにエロゲするな」
 
 ピコンと軽快な音がなる。
 スマホを見ると梨紗からメールが来ていた。

 『サーセンwww』

 梨紗を見ると舌を出して笑っていた。
 
 「わざわざメールで煽ってくるのかよお前」

 「だって、誰かさんが冷たいし?」

 いや、むしろ6時間も愚痴に付き合う幼馴染をもっと労っても良いと思うんだが。

 「悪かったな。食ったら食器片しておけよ」

 眠い目をこすりながら、俺は梨紗に背を向け自分の部屋に向かう。
 予定外の襲撃のせいでだいぶ遅くなってしまった。ものすごく眠い。

 「はーい」

 ※

 「まぁ、そりゃあ寝過ごすよな…」

 12時を指す目覚まし時計を睨みながら、ベットから体を起こす。
 ふと、左側に違和感を感じた。具体的に言うと人間一人くらいの暖かさがある。
 猛烈に嫌な予感がする。
 
 「…ん、にゅー」

 「幸せそうに眠りやがって、全く」

 猫さながらに、俺と布団にうまく抱き付きながら眠っている梨紗が居た。通りで少し肌寒いわけだ。
 起こさないように梨紗の拘束を解き、姿勢を正してキチンと布団を掛ける。
 今日はこのままのんびりするのも悪くない。梨紗の頭を撫でる。

 理沙には特殊な家庭事情があるらしく、両親がいない。生活費などは親戚の叔父さんから振り込まれていると理沙は言っていた。だから昔から俺は理沙の兄代わりとして長い時間を過ごしてきた。初めて会った時は塞ぎ込んでいて無口な子だった。
 それが今の関係になったのは漫画やアニメの影響が大きかった。いつも暇そうに窓から外を眺めているだけの理沙に、当時流行っていた漫画やアニメを進め感想を言い合ううちに自然と段々と打ち解けていた。…やや、俺に依存しているのが玉にキズだが。 

 今ではこの世のすべてに絶望しきった表情は消えて、何もかも満たされた様な表情をした梨紗を見つめて、梨紗が起きるまで撫で続けるのだった。

 そんな俺たちの関係に、小さな変化が起きたのはその翌日。学校の
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