きっかけは些細だった
誰のせいでもなかった
死んでしまえば尚のこと、どうでもよくなった
今こうして確かに存在しているだけで
それでよかった
「う・・・ん」
「やあ起きたかい・・・よく眠れたようでなによりだよ」
ライラの甘い囁き声が耳元で脳を犯す。また意識を持っていかれては事なので、すぐにむくりと体を起こした。そこは店の2階にあるライラのプライベートルームだった。
どうやら昨夜はそのまま酔いつぶれてしまったらしい。随分早い時間に来てずっとお酒を飲んでいたから。エリーも、珍しいことにルアもすやすやと寝ているようだった。
なぜか皆衣服が乱れており、ライラの肌がやけにツヤツヤしているのはやはりアレなのだろうか。全く思い出すことができなかった。聞くのも怖いのでやめておく。
神妙な顔つき(だったと思う)でライラを見ると、少し頬を染めて目を反らすのだった。
「・・・昨日はその、すごかったよ」
「ああ・・・・・・やっぱりか」
その後ふたりが目を覚ますまで、世間話ともつかない雑談を交わした。ライラと素面でこんなに話すなんて、初めてじゃないだろうか。それはともかく素面のライラは少し恥ずかしがりやであることが分かった。まず数秒しか目を合わせられない。昨日のことが原因かとも思ったがどうやらそれだけではないらしい。いつもは酒で誤魔化していたのか、こうしてみると可愛らしい女の子だ。つい頭を撫でてしまう。
「ん、やめてくれ・・・もうそんな・・・子供じゃないんだ」
「ごめん。でも大人とか子供とかそういうことじゃないだろ、ただそうしたかっただけさ」
「・・・君は昔からそうだね、そうやって―――」
・・・昔?
小さな独り言のようだったが、僕の耳にも微かに聞こえた。昔というほどライラと古い仲ではないのだけれど。もしかしたら彼女は誰かと僕を重ねて見ているのかもしれない。それっきり押し黙ってしまった。地雷を踏んでしまっただろうか、こういう馴れ合いは時を見てしないといけないようだ。
「 」
「っ・・・」
やがてふたりが起き、ライラが振舞ってくれた軽食をお腹に収めてから店を後にした。その日は店は休みだったらしく。始終手を振っていたライラを尻目に扉を閉じたら、もう店は無かった。いつもそうであるように。
「結局また酒に飲まれてしまったわけだけど」
「おいしかった です ね」
「・・・うん」
体にだるさは無く、酒気もすっかり抜けて、気分は清々しくもあった。残念ながら朝日は差していないが、空はとても澄んで青い。人気の無い大通りを3人並んで歩く。死者達は地面に倒れこみ死んだように寝ている。死者なのに・・・
まだ朝の早い時間だったが、帰って仕事をするには少し遅い。そうだ、たまには素材を仕入れに行こう。
いかんせん郊外の自宅が仕事場のため、仕入れや納品のためちょこちょこ遠征しなければならないことがある。この市街地や正反対の郊外にある牧場など足で行くにはそれなりに時間のかかる場所も常に何らかの荷物を持って歩き回る中々フットワークの要る仕事なのだ。最近ではふたりがお使いを頼まれてくれるので、1日かけていた周回の分の時間が丸々空いたので、仕事効率は格段に上がった。これはとても大きかった。
しかし今日に関しては3人揃って中央部にいるし手も空いているので、このままみんなで仕入れに行くことにした。家とは別方向に足を向ける。
ところでふたりがお使いに行く時は必ず一緒に行動する。ひとつはエリーは喋ることがあまり得意では無いため、ファーマーに注文を上手く伝えられないからだ。ここではルアが持ち前の不思議空間で僕よりも巧みに素材を落としたりしてくれる。驚くべきことにルアが仕入れを担当するようになってから材料費が1/3で済むようになった。いったいどんな魔法を使っているのだろうか。
そしてもうひとつ。ルアは実体が無いため、仕入れた素材を運んでくることができないからだ。これに関しては実体のあるエリーが担当するのだが、これまた驚くべきことに僕がギリギリ引ける荷車の重さの5倍はあろうかという量を軽々と運んでくるのだ。一般的にスケルトンという種族の力はあまり強く無いと聞くが、エリーはどうしたことかとても力持ちだ。以前道を塞いでいた樹齢3桁の太い倒木をぽいと道端に除けてしまったのである。これには流石に開いた口が塞がらなかった。腕はあんなに細いのに・・・。
こうしてふたりは大変相性の良いコンビとして一介の紡織人には勿体無いくらいの働きをしてくれている。
「ワーシープですか」
「ああ、例の旅団が最近ウチの牧場にも来てくれてね。居心地がいいってんで数人住み着いてくれたのさ。話には聞いていたが
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