生者の行進

世界樹なんて、存在すら怪しい空想上の物だと思っていた。
昼間でも薄暗いこの街に影を落としている原因の超大な樹(大きすぎて樹だと分からなかった)がそうであると知ったのは割と最近の話だ。
そんな大木ならば近辺全てが影になるのだが
どうやら樹はこの街からしか見えないらしい、というのはまた別の話。

太陽の恩恵を受けられないというのは結構な不便であり
貿易や産業があまり盛んではなく人の出入りも疎らになるのは仕方ないことだったが人口はそれなりに多かった。
陰湿を好む者、影を求める者、日光が障害となる者、日の目を見られない魔術師や犯罪者までもがこの街にはよく集まる。
しかして治安は悪くなかった。
不干渉が暗黙の了解になっているせいか、人間でも魔物でも問題はさして無く、付かず離れず皆ひっそりと暮らしていた。

そんな街だから、いつしかその静穏心地好しとした者達が現れるようになった。
死者だ。
生前どんな生活を送っていたかも知れない彼女達は何処からとも無く現れ、何をする訳でもなくこの街に住み着いている。
男たちは気の向くまま彼女達と戯れ、逆も然る。
誰かが誰かのために居るわけではないのでそこに一切の問題は発生しない。
その需要と供給は性にも精にも困らない均衡状態であるため、この街の治安に大きく加担しているのかもしれない。

街より少し離れた丘陵、墓地の傍らに建てられた小舎に僕は住んでいた。
紡織を生業とする僕はここで糸を紡ぎ、たまに裁縫しながら細々と生活していた。
だがいつの頃からだろう、僕の傍には二人の少女が居た。
この街の例に漏れず二人とも死者だったが見目麗しく可憐な容姿をしていた。
ふわふわ浮かぶ穏やかな雰囲気のゴースト、ルア
少しキツい目つきだが臆病で恥ずかしがりやのスケルトン、エリー
初めは無表情だったが、日に日に性格を表に出すようになり最近では濃密なコミュニケーションも取れるようになった。
この二人の素性は知らないけれど、僕は寂しくなくて助かっている。


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 朝、僕は世界樹に陰らない数少ない日差しを浴びて起床する。寝床ではまだエリーが目を瞑っているが、寝ているかどうかは分からない。とりあえず静かに抜け出すことにしている。
いつの間に覚えたのか、ルアが注文書を持ってきてくれるようになった。
 服の修繕、裁縫をして空いた時間に羊毛を紡ぐ。基本的にこれの繰り返しであまり時間に追われること無く僕に向いた仕事だと思っている。
後から起きてきたエリーはお使いで素材を運んでくれたりするし、ルアは細かい作業をとても正確にできる。
 二人のおかげで作業効率が大幅に上がった。人件費がかかるわけでもないので、色々な余裕もできた。せめて彼女達に労いをしたいが、まだ僕には彼女達が何を望んでいるのかよく分からない。


斜陽は高い、空は青い、風が優しく吹いている
しかし暗い
「明るかったら 私の姿は 見えないですよ たぶん」
もう透けてて若干見にくいけどね
「・・・眩しいのキライだし」
骨の光沢が眩しいよ


 一仕事終え、気持ちじめじめした家を出て見晴らしの良い野原にごろりと寝転ぶ。
 街と反対側には海があり、更に大樹の影、「こっち」と「あっち」の境界線がよく見える場所だった。
 休む僕を挟むように位置取る二人。片や隣にちょこんと座り、片や少々高度を落とす。
 陰日向に咲く植物の香り高い空気を吸い込み一息、日は無いがほのかな地熱と草のベッドがなんとも気持ちいい。隣の二人はそれを感じることができているのか、訊いたことはないから分からない。何を考えているかも分からない。


 ほぼ毎日こうして昼下がりの時間を過ごしているのだが、二人ともまだ自主的には喋らない。
 家に引きこもりすぎて話題が無いだけかもしれないが、大体は僕の独り言に相槌を打ってくれるだけだ。
 だからあまり会話は弾まないが、かといって気まずい雰囲気があるわけでもない。幼い頃からこの街に住んでいた僕にとってこれくらいの距離が一番慣れたものだから。彼女達もそれに満足しているのか物言わず僕に寄り添ってくれている。


 たまに睡魔に負ける事がある。多忙により夜更かし過ぎた時にあることなのだが、僕が眠っている間ルアは自分の霊体を僕の体に重ね掛け布団のような役割を果たしてくれている。
 ルアの霊体は外気より少し暖かく、掴むことはできないが触れているとなんだか安心でき、寒い時期は常にくっついていてくれるのでかなり重宝している。ただ重ねているだけとは言え軽い融合状態なので、彼女の妄想が垂れ流れてくるのが問題と言えば問題だった。
 覚醒している時ならまだいいが、寝ている時に思考が流れてくるとそれがそのまま夢になる。無防備な脳が桃色に染まるのは色々
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