幽明兄妹と、可笑しな烏天狗(前編)

隔壁の街の、小さな新聞社。

薄暗い部屋の中で、一人の少女が難しい表情でノートを睨んでいた。


少女の姿を端的に表すならば、まさに漆黒という言葉が相応しい。

墨染の様な美しい黒髪。腕の代わりに彼女の双肩から生えている羽は、彼女がハーピィ系の魔物であることを示している。

切れ長の瞳は彼女の種族の猛禽類の様な性格を良く表しており、男には魅力的に映ることだろう。


彼女の名は黒恵(くろえ)。カラステングである。


普段は底抜けの明るさから、周囲に笑顔を提供している彼女は、本日は大変不機嫌な様子で、ノートに文章を書いては消し、書いては消しを繰り返していた。


「あーっ!ダメだ!!何一つ良いネタが見つからない!」


どうやらネタ詰まりらしく、苛立ちを誰も居ない空間に吐き出す黒恵。


「ワーシープのカーリーさんが子どもを生んだ話……は先週号でやったし……、メロウのフルールさんの恋愛相談……はチラシの裏にでも書いてろってハナシだし……、次期領主への密着取材……なんて魔物の皆は興味湧かないわよね……」


ノートとにらめっこをしながら、あれでもない、これでもないと独り言を呟く姿は、端からみたら危ない人だろう。

と、その時、黒恵の部屋に一人の魔物が入ってきた。


「黒恵さん!ネタ持ってきましたよ!」


ネコマタと思わしき猫耳の少女は、お手柄といった表情で黒恵に一冊のノートを渡す。


「どうしたの、縁珠。何か事件でもあったの?」


黒恵はぞんざいな口調で、部屋に飛び込んできたネコマタに訊く。

彼女の助手である縁珠は黒恵を慕っており、新聞を作る手伝いをよくしてくれているが、何分おっちょこちょいで持ってくるネタもあまり期待が出来ない。


「ええ、大事件ですよ!あの盗賊達の事なんですけど」


そこまで聞いて、黒恵は半ば失望した。


「またあの盗賊の記事?もう3週間もそれ載せてるじゃない。そんな使い古されたネタじゃなくてもっとホットな記事が書きたいのよ」

「人の話は最後まで聞いて下さいよ」


話を途中で切られた縁珠は若干不機嫌になりながらも、話を続ける。

黒恵は呆れた表情をしている縁珠を見て、殴りたくなったが、その衝動をグッと堪えて次の言葉を待つ。


「その盗賊達が捕まったらしいんですよ!今朝警備隊の人に取材して裏も取ったから間違いありません!」

「ウソ…、捕まったの!?誰も捕まえられなかったのに!?」


さすがに驚きを隠し得なかったのか、思わず瞳孔が開く黒恵。


「一体どこの誰!?今まで誰一人として敵わなかったのに!」

「あの、それが……」


黒恵の質問に、助手は言葉を濁らせる。


「北の教会に滞在している二人組の旅人らしいです」

「旅人…?なら急がなくちゃいけないじゃない!もたもたしてたら街から出ていくかもしれないわ!」


黒恵は取材道具をカバンに詰め込み、縁珠を押しのけて部屋から出ていく。


「あ、黒恵さん。私も…」

「アンタはここで留守番!一面の見出しでも考えていなさい!」


そう言い残すと、黒恵は窓から飛び出して真っ直ぐ北の教会をと飛んでいった。










「ラクスさん、ロードさん。お昼御飯は何にしますか?」


控えめなノックと共に部屋の扉が開かれ、ラッテさんが入ってくる。


「朝、兄上を食べたから甘いものが食べたいのう」

「まてコラ」


ラッテさんの質問に、本を読んでいたロードが答える。


「うふふ。ラクスさんは何かリクエストはありますか?」


ロードの過激な発言をさらっと流し、ラッテさんは同じく本を読んでいる俺に聞いてくる。

いきなりロードがあんなことを言っても平然としている辺り、やはり魔物という感じがする。


「ロードかラッテさんと同じもので良いですよ。そもそもそんな我儘を言える立場じゃありませんし」

「そうですか…、お昼に何を食べようか思い付かなかったから私もお二人のどちらかと同じものを食べようと思っていたんですよね」

「あぁ、そうなんですか」


ということは、必然的に――


「では、ロードさんのリクエストに応えてケーキでも焼きましょうか」


そういうことになるな。


「ふふ、では早速作りますから、楽しみにしてて下さいね」


そう言うと、ラッテさんは修道服を翻して部屋から出ていった。

ラッテさんの足音が聴こえなくなったのを見計らって、俺はロードに先程の発言に関する弾劾をする。


「ロード、お前…。いきなりなんて事を言い出すんだ…」

「ん?しかし事実じゃろう?兄上がワシの口で三回もイったのは」


恐らく顔を真っ赤にしているだろう俺の文句をものともせず、むしろ艶かしい挑発を返してくる。

世界広しと言えど、ここまで色気のある表情を
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