僕とナルはクラスでは「後ろの二人」なんて呼ばれてる。理由は単純な事で、何度席替えしても僕らが必ず一番後ろの列になるからだ。あんまりに何度も二人が同じ列になるものだから、周りは「恋人同士」と認定している。
実際、僕とナルは恋人同士だ。恋人になった理由は、周りが色々と推したということもあるけど、僕らはそれ以外でもピッタリと合ったからだ。二人ともクラスではいつも後ろの列になる以外はほとんど目立たない、あまり騒いだりせず大人しくしている、地味な存在なのだ。
僕の容姿は、取り立てて美男ではない、ごくありふれた男子のそれだ。体格も真ん中ぐらいで体育はさほどできない。勉強も赤点は取らず、日本史と美術がそこそこ良い程度だ。さらに僕は喋るのは少々苦手で、休みの時はもっぱら図書室に行ってるか、教室にある文庫本を読んでるかのいずれかだ。だから必然的に活発で社交的な友達は少ない(男友達はいるにはいる)。でも僕は脚光を浴びるような事はあまりしたくない性分だから構わない。だからずっと目立たないわけである。
一方のナルはすごく小柄で、位置と合わさって先生が出席を取る際、少し手間がかかったりする。顔は、ハッキリ言ってかわいい方だ。しかし、それでも周りの女子と比べると豪華な庭園にポツンと紛れ込んだコスモスみたいなもので、慎ましい雰囲気だ。しかも髪は短くしており、その割りに前髪がよく伸びてることが慎ましさに拍車をかけている。ついでに趣味は読書、しかも中島敦とか、古い格調高いものを好んで読んでる。だから周りの女子の話題に合わせられることはほとんどできない(十代女子が「山月記」の話で盛り上がるだろうか)。何より彼女は女子、というか、魔物娘にしては恥ずかしがり屋で控えめな性格であること大きい。しかも、ナイトメアとかではなくサキュバスなのだ。多分だが、種族の中でもこういう子は珍しいだろう。それ故、彼女も休み時間はもっぱら読書に費やされる。
そんな訳で、僕らがくっつくのは、まあ至極当然だった。教室で、しかもいつも同じ列で、図書室でもよく会う、となるとお互い気になるわけで、ちょっとずつ距離が近くなって行き、肌を重ねる仲になったということとである。
そう、僕らは普通にそういうことのできる仲だ。控えめと言えど彼女はサキュバスな訳で、恋仲になったその日の夜に食べられたのだ。
さて、今日も授業が終わった。ある人は授業の厳しさと宿題の量の愚痴を大声でもらし、ある人はカラオケでなに歌おうか相談し、またある人はすでに恋人と甘い空気を漂わせている。僕とナルはそんな中、静かにそそくさと教室を出て、まっすぐに校門に向かった。途中で部活動と生殖活動の声が聞こえた。
校門を抜けた所でナルが口を開いた。
「今日はどうしよっか」
僕はちょっと考える。
「今日でた数学の宿題、大変そうだから一緒にやる?」
「うん」
彼女はこくんと頷いた。
「……かっくんの所でする?」
かっくん、は僕の事だ。
「いいよ」
「やたっ♪」
小さな彼女が小さく跳ねた。彼女の尻尾も腰あたりに生える羽も嬉しそうに動いてた。
僕は寮で一人暮らしをしている。普通、寮というものは女の子を連れ込むの禁止だが、僕の高校は女子がほぼ全員魔物娘なので、学校の生徒ならば連れ込んでなにしても大丈夫ってことになってる。実におおらかだ。ちなみにナルはナルで別の寮で暮らしてる。
かちゃりと鍵を開け、部屋に入る。
「ただいまー」
「おじゃましまーす」
「どうぞー」
これはいつもやってるやり取りだ。最初にふざけて僕が「どうぞ」と言ったところ、ナルがクスリと笑って面白がって以来習慣化してる。
僕はまず冷蔵庫に向かった。
「何か飲む?」
「うーん……ジュース、あるかな?」
「レモネードあるけど」
「ん、それで」
僕が飲み物を持ってきたら、彼女はすでに一緒に宿題する準備を済ませてた。
「気が早くない?」
「えと、早くにしといた方が、いいかなって」
「ちょっとは休んだら?」
「でもそうしてたら…さ」
「あー……」
前髪から見える、彼女の目を見て、言わんとしてることを理解した。
「それじゃ、飲んだら始めますか」
「……ごめんね」
「いや、いいよ、早めに済ませた方がいいしね」
別に謝ることはないけど、謝ってしまうのもナルを可愛いと思える理由だったりする。
そこから、僕らは着替えもせずに宿題に取り掛かった。本当にただただ宿題するだけ。でも、お互いそばにいるだけで嬉しいのだ。
「うーん……」
ナルがちょっと詰まったらしい。
「どしたの?」
「ここ……どうしたらいいか、わかんなくて」
見ると先程僕が解いたばかりの問題だった。
「あー、ここはこう、
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