私には、秘密がある。
親友にも、両親にも打ち明けられない、打ち明けてはいけない秘密。
知って欲しい、あの人にも。
だから、私はそれを自覚した日から、ずっと心の奥底にしまい続けてきた。
だけど、あの子はそれを、知っていた。
私の「秘密」を知って、それを私に突きつけた。
そして、突きつけてなお、あなたを、救ってあげると言った。
だから、私は──
「貴女は、お兄さんが、好きなんだよね?」
彼女は少し笑って、そう言った。
そしてそれは、知られてはいけないことだった。
同じ両親から生まれた、実の兄への恋心。
それは決して、世間的にも社会的にも、肉体的にも許されえぬ恋。
叶うはずの無い、叶ってはいけない想い。
だから──天塩 由姫(てしお ゆき)は否定しなければならなかった。
「…もう、変なこと言わないでよアムハイトさん。わたしが、お兄ちゃんのこと好きなんて──」
「でも、好きなんだよね?」
まるですべてを見透かしているかのように、目の前の彼女は薄い笑いを浮かべたままで、由姫をじっと見つめていた。
3ヶ月ほど前、始業式からまだそれほどの時間が過ぎていない4月のある日。
リムア・アムハイト。外国からの転校生だという彼女は自己紹介で、そう名乗った。
少し色素の薄い、グレーに近い長い黒髪は絹糸のよう。背丈はすらりとした長身で、女の子なら誰でも憧れるような体躯。 白くシミひとつない肌は、白磁のという表現をこれ以上ないほどに体現している。
そして、その顔は美麗に整えられ、男子はおろか同じ女子ですら虜になってしまうような、人種の違いさえ超越した神々の──あるいは、悪魔のような美貌。
翻って自分はどうか。
染めたの?の言われ続けて早数年、もう否定するのも面倒なほどに栗色の強い地毛のセミロング。顔はまあ、そこまで悪くはないと思いたいけども、少なくとも彼女には到底敵わない程度の造形。というか、この転校生と比較されるとマスコミに露出している売れっ子アイドルでさえ霞んでしまうが。 手足も背もあそこまで長くないし、何より転校生の胸のラインが出にくい制服の上からでもはっきり分かる程度には豊かな膨らみは、彼女にはなかった。
…それでも由姫の名誉のために付け加えておくが、一応同年代の平均程度のサイズはあるのだが。
こんなに美しい人がいるんだと、同じ女子にも関わらず見惚れていた自分を、由姫はしっかりと覚えていた。
そのリムアが今日、帰りがけに由姫を呼び出し、今二人は誰もいなくなったこの逢間高校2年C組、つまり自分の教室で、対峙していた。
「苦しそうって、べつに私は普通だよ?アムハイトさんの、気のせいじゃないかな」
うまく誤魔化せている自信はあった。彼女が6つ年上の兄への恋心を自覚した小学校の終わりから、親しい友人にも、両親にも、そして兄本人にも覚られること無く、ずっと隠し通してきたのだから。いつもと変わらない口調、変わらない仕草で、由姫はリムアの言葉を否定した。
「それで、話ってそれだけ?なら、もういいかな?今日はお父さんもお母さんもいなくて、お兄ちゃん帰ってくる前にご飯作らないと──」
「駄目」
きびすを返そうとした由姫を、リムアが薄い笑いを湛えて遮った。その一言に、普段はめったに怒ることの無い彼女も少し頭に血が上る。
「駄目って…こっちも忙しいんだよ?だから」
「だって、由姫、いつもつらそうな顔してるもの」
その一言に、由姫は固まった。
自分が、つらそうにしているなんて。そんなこと。
「好きになってはいけない、って人を好きになって、それを伝えられなくて、でもその気持ちも捨てられなくて」
由姫は叫びそうになった。
やめて、と。それ以上言わないで、と。
これ以上、私の心を穿らないでと。
「そして大好きな人の名前を呼びながら、一人で慰めることしかできなくて本当に、つらそうに──」
「もうやめてっ!!!」
そして、叫んだ。
叫んで、しまった。
「なんで?なんでそこまでわかるの!?私は誰にも話してない!だって話せるはずもないもの!実のお兄ちゃんが好きなんて、誰にも言えるわけないっ!」
もう隠しておけなかった。涙が溢れ、平静を装っていた顔はくしゃくしゃになった。ずっと押さえつけていた心は、すでに臨界を迎えていたのだ。そしてリムアの言葉によって、心の炉心は溶け出した。
「だからっ!ずっと、ずっと隠してたのにっ、な、んで、ぐすっ、知って、るの…っ!!」
もう言葉になっていなかった。由姫はぺたりと座り込み、深い緑のチェック模様のスカートに、ぽたぽたと涙の雫を零した。
だいぶ傾いた西日が差し込
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